第345話 国際港バンコクと小西行長

 西暦1596年4月。バンコクの小西行長は冬場(乾季)に紅海やペルシャ湾、或いはインド各地へ夥しい数の幕府御用船団を全て送り出し、これからの雨季は逆に西からの船でバンコクは賑わう。


 元々、行長は南方開拓府の長官として台北に赴任。その後、脇坂安治が代理となり、自身は弟の行景とアユタヤへ赴き、その後はバンコクを本拠としている。


 現在は南方開拓府長官から南海府長官となっており、織田幕府における東南アジア統治の責任者たる地位を担っていた。


 南海府はほぼ商社であり、カンボジア、海南島、呂宋、豪州、台湾、香港、マカオ、シャンバラ(ミャンマー)、昭南(シンガポール)、マラッカ、クアラルンプール、ジャカルタ、チェンナイ(マドラス)、ゴア、カリカット、ボンベイ、カラチなど幕府が統治する各地の情報が集積されている。


 また、友好国の部署もあり、米や麦の収穫量や景気動向を把握していた。少なくとも東南アジアでは織田幕府が発行する貨幣の独壇場となっており、唯一無二の基軸通貨だ。貿易も各国の商人では太刀打ち出来るはずもない。


「七右衛門(小西行景)よ、珈琲豆、茶の木、カカオ豆を育てるのは、なかなかうまく行かぬのぉ」


「兄上、育つの時を要します。待つしかござらぬ。阿片は十分作っておりますが、まだ足りぬと大坂はうるさい」


「トルコがハンガリーという所を攻めており、薬と称し、大量に差し入れてるようでな……。欧州では煙草と並び売れておるらしい」 


「あれは毒でございましょう。欧州へ流している煙草も印度産の大麻が原料……」


「儂も気になってはおる。幕府曰く、多神教の国々では毒なれど、西方では妙薬らしい。酒にしても、西方の民は強く、東方の民は弱いであろう。体質とかいうようじゃ。アジアの民は酒の成分とやらを分解し難い体質のため、量も飲めず、直ぐに酔ってしまうそうだ」


「然様にいわれたら確かに、イスパニア人やポルトガル人などは信じられぬ程、飲んでおります」


「まあ、そういう事らしい」


 幸田広之が作成した阿片や大麻煙草の模範解答集に納得してしまう小西行長と行景の兄弟であった。




◆偏西風・貿易風・季節風・海流について


①偏西風

これは西から東に吹く恒常風であり、35~60度の緯度が対象。飛行機の運航でも、東南アジアへ行く場合は遅くて、帰りは早い原因だ。北緯と南緯の両方が対象。日本は北半球なので北緯のため、もろに影響を受けてしまう。しかも、季節によって位置が変わるので厄介だ。春=日本上空、夏=オホーツク方面、秋=日本上空、冬=日本の南方面というサイクルだが、基本的に秋から春に掛けては日本を通過する。強弱が違うだけだ。この偏西風によって、高気圧や低気圧が流れ込む。台風が南で発生し偏西風でブーストされ、大きさと速さを増すのはそのため。また、北半球の場合は陸地が多く地形の影響を受けやすいため蛇行したりする。南半球の場合も蛇行するが北半球程ではない。南半球は秋から春辺りに偏西風を使えばドレーク海峡→喜望峰→豪州→ドレーク海峡間は相当な速さで航行可能といえよう。

※注意:一般的にも知られるジェット気流は偏西風の一部。寒帯前線ジェット気流と亜熱帯ジェット気流が存在する。


②貿易風

貿易風は緯度30度の範囲で東から西へ吹く恒常風である。亜熱帯で収束するため、赤道を挟み北半球が北東風、南半球は南東風。北半球は夏季、南半球は冬季が安定しており、東から西へ航海がしやすい。緯度としては種子島辺りからシドニー辺りのため日本から西、アメリカ大陸から西、アフリカから中南米へ航行する際、最も重要である。つまり、日本と欧州を往来する場合、貿易風と偏西風を組み合せるのが基本だ。


③季節風

読んで字の如く、先に説明した偏西風や貿易風のような恒常風ではない。季節によって決まった方角へ吹く。モンスーンといった方が通じる。基本的に夏は海洋から 大陸へ、冬は大陸から海洋へ吹いたりする。日本の場合は夏は太平洋上の湿った高温の空気が南東より吹き、うだるような暑さとなり、冬はシベリア方面から寒気が北西から押し寄せるため、夏冬の差は激しい。インド洋や東南アジアなどの場合、夏は南西から吹き、冬は北東から吹く。夏の南西モンスーンは大量の大雨を降らす雨季の原因である。冬の北東モンスーンは大陸から海洋に向かって乾燥した風が吹くため、雨は殆ど降らない。いわゆる乾季だ。


④海流

海流と潮流は違う。海流は川のように一定の流れがある。潮流は潮の満ち引きによるものだ。紛らわしいが黒潮は潮流でなく海流に他ならない。世界の海域で無数の海流が存在するが、当作品に関係あるものを幾つか紹介する。日本とアメリカ大陸を結ぶのは、黒潮→北太平洋海流→北太平洋海流→北赤道海流という北周りの循環が成立。さらに、赤道付近をアジア方面から中米方面へ流れる赤道反流。インド洋を東から西に進む北赤道海流と赤道反流。北大西海流や南大西洋海流。


◯まとめ

このように偏西風・貿易風・季節風・海流などを利用しつつ、台風やハリケーンの時期は避け、地球規模のネットワークが成立しています。当作品では主人公が現代から持ち帰った資料により、正確な資料があるため、当時欧州で使われていたポルトラーノ海図やメルカトール図法など問題にならない次元。航洋図、航海図、海岸図、港泊図の他、偏西風・貿易風・季節風・海流などについても、正確な情報があるので、航海速度が速い上、遭難率も低いとお考え下さい。



航路→第321話参照

海流・貿易風→近況ノート第321話後記参照

新亜大陸の航行時期→第321話参照

幕府の流通網→第317話参照

バンコク→第324話、第155話、第128話参照

南方開拓府→第87話参照

ナーレスワン大王→第154話参照

小西行長→第234話、第205話、第158話、第157話、第156話参照

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