第340話 近衛前久と失われた高天原⑤

 近衛前久率いる公家衆がティカルへ着いて以来、数ある神殿を毎日調べていた。そんな前久へ幕府の役人が息を切らせながら告げる。


「珍しき物が見つかりましてございまする」

 

「誠でおじゃるか。直ぐに案内いたせ」


 前久たち公家衆は役人の案内で、ある遺跡内へ入った。神殿奥の部屋には石の箱があり、蓋は開かれている。箱の中石は石のようにも見えるが、何か違う材質で出来ているらしい円形の盤があった。  


 これまで、見たマヤやアステカの文字とは明らかに異なる。どちらかといえば前久たちがエジプトで見た古代の文字(ヒエログリフ)と近いような印象を抱く。


 突然、遺跡の奥から低い呪文のような声が聞こえてきた。驚いた公家のひとりが、幕府の役人へ尋ねる。


「あれは、この神殿を代々守っている一族の者でございます」


 程なくして、前久たちの前へ姿を現した。幕府調査団に同行しているシャーマンより高位のようだ。同行しているシャーマンは神殿のシャーマンを敬うというよりは、畏れているような様子である。


 神殿のシャーマンには戦士が従っており、それらはマヤの伝統衣装を身にまとっていた。数人居るシャーマンの長老格と思わしき人物のは手に古い杖を持ち、 顔には深い皺が刻まれているが、目は燃えるような鋭さを持っている。


 そして、前久の前に来ると何やら唱え始めた。しばらくして、前久の意識は浮遊してるかのような混濁状態となり、突然長老の意識が語りかけてきた。実際には口を全く動かしていない。


「長い旅路の末、ここへ辿り着いた者たちだな……」


 長老の語りかけは日本語であった。驚きつつも前久も日本語で返す。


「あなたは何者でおじゃるか……」


「我は、この地を守る者である。 一族はこの神殿が出来る遥か前、西の地に住んでおったが、この地へ移ってきた。この廃墟には、異世界へと繋がる扉が隠されておる。その扉は、星々を超えた世界へと繋がるものだ。だが、その扉には開くには天より舞い降りし者の子孫の力を必要とする。そなたは紛れもなく、その子孫である事を承知した。あとは覚悟が必要だ。そなたが求める真実は、この世界の外にある」


 長老はゆっくりと石盤に手をかざし、祈り始めた。やがて、懐の袋から取り出した不思議な物を置いていく。さらに、前久たち公家の手を石盤へかざすよう命じる。 

 

 すると、石盤が光だし、目の前にある巨大な石壁へ眩しい光が放たれた。前久たちには想像絶する光景だが、現代でいうところの3Dホログラムを彷彿とさせる。


「これこそ、天より舞い降りし者が我々に残したものだ……。そなたたちが扉を開ける覚悟があるなら強く念じよ」


 前久と公家衆は呆然と立ち尽くしていた。 これが、かつてのマヤ文明を支えた謎の力なのか……。 彼らは、その扉を開くべきかどうか、深く考え始めた。 しかし、前久の中にあった探求心が、彼を先へと進ませる。


「我々は、進むでおじゃる。宇宙の真理を知るために……」


 前久の言葉とともに、長老は静かに何やら唱える。そして、彼の合図とともに、壁は光り輝き、穴が開いた。光が渦巻いている。 


 前久たち公家衆は光の中へ吸い込まれていった。



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