第333話 織田信孝、現代へ行く⑥
早朝から織田信孝はダウンロードしてもらっていた映画を見ていた。『戦国帝国陸軍』『足利一族の陰謀』など、ペットボトのルカフェラテを飲みつつ眺める信孝はさまになっている。傍目からみれば現代人そのものであろう。
そのうち、幸田広之と犬神霊時も起きてきた。しばらくして、広之は信孝と2人で外出し、浅草のパチンコ店へ入店。
「賭場があるのだな。しかし、何という騒がしさじゃ」
「上様、この台へお座りくださいませ」
広之は信孝へマリン物語の説明をして打たせる。1/99.9のいわゆる甘デジだ。信孝は14回転目で早くも画面がブラックアウトしてから貝殻ボタンのマークが出た。
「上様、台の貝殻を押してくだされ」
「承知した……」
信孝が貝殻を押すと、激しいバイブ振動と凄まじい音が鳴り響く。そして役物が落下し、確変大当たりとなる。結局、6連チャンとなった。結局、1時間程打って、信孝はそこそこ勝ち、広之は少しの負けという結果だ。
店を出た広之と信孝は場外馬券売場でフェブラリーSの券を購入。総額10万円程買った。さらに、タクシーで御徒町へ移動し、アメ横の老舗居酒屋大統領へ入店。もつ焼きや煮込みを注文し、ホッピーが運ばれてきた。
「上様、これはホッピーと申しまして、焼酎を麦汁で割ったような物でございます。昔はビールの代用品でした。今はビールより体への負担が少ないため、喜ばれておりまして、もつ焼きや焼鳥との相性は格別」
「ふむ、これは飲みやすいのぉ。ビール程重くない。この弾ける水は何といったか」
「炭酸水でございます」
「そうじゃった。向こうで作れるぬのか」
「摂津の武庫川に炭酸鉱泉がございます」
「湧き出ておるのか」
「はっ、西暦1800年代の終わり頃、イングランド出身のウィルキンソンと申す者が発見しております(有名なウィルキンソンの由来)」
「戻ったら、直ぐに見つけ出すのじゃ。夏の間、炭酸水が楽しめる程の氷も必要であろう」
「そうなると、氷室を沢山作らねばなりませぬ」
「楽しみにしておるぞ。しかし、日本は90年以上も戦をしておらぬのであろう。昼から、もつ焼きや焼鳥を食い、ホッピーを飲めるというのに、テレビとやらで偉そうな事を申している評論家どもらは頭がおかしいのでないか」
「然様でございますな」
「向こうも油断すれば、あのようなたわけたちが湧いてくるというのは承知した。多少、手荒な真似してもやむを得まい。かような輩は出来る限り沿海州の彼方へ送ってしまうが良かろう」
「匙加減がいささか難かしゅうございます。ただ、理に適った幕政批判や提案はさておき、憎悪むき出しで、ひたすら罵詈雑言浴びせるような所業は手を打たねばなりませぬな」
この後、広之と信孝はアメ横の裏通りにあるサウナへ入って汗を流した。そこで休憩中、信孝はある漫画に目が行く。軽く読み驚いた様子で広之へ問う。
「左衛門よ、『信長の料理長』と書いておるな。少し読んだが、まるでそなたではあるまいか」
「はぁ……それがしも、最初はまるで漫画だな、と思いました」
休憩して、もうワンラウンド程、入浴を終え、着替えている時、スマホを見た広之は驚く。何と購入した馬券が当たっているではないか。
圧倒的本命が沈み、ワイドで買った3万円は約330万円となっている。広之たちはタクシーに乗り、浅草へ舞い戻って、払戻しを受けた。
その後、過去へ戻る際の土産を買い、一旦帰宅。犬神を伴い、丸の内へ向かった。喫茶店で肉山298、鬼墓亜衣子、鬼墓亜梨沙、小塚原刑子、竹原なども駆けつけ、ウルフギャングステーキハウスへ入店する。
プライムステーキ、ロブスターカクテル、フレッシュオイスター、キャビア、サーモンの直火焼き、ウルフギャングサラダなどを注文。
「流石、幸田君。学生時代や駆け出しの頃はスロットと麻雀で食っていただけの事はあるね」
「えっ、幸田氏は博徒だったでござるか」
「まあ、そんな時代もありましたね」
「何、左衛門は博徒であったのか。どうりで賭け事に寛容なわけだな」
「なんだい、幸田君。ご法度じゃないのか」
「下手に禁じるよりは、ある程度認めたほうが良いかな、と。札は禁止ですけど」
酒や前菜類を楽しんでいると、プライムステーキが運ばれてきた。なかなかの迫力である。
「さあ、お召し上がりくださいませ」
「これは……。何たる美味。焼肉やすき焼きも良いが、また格別なる味わいじゃ」
ウルフギャングステーキハウスはアメリカ仕様なだけにどの料理も量が多い。高いワインも飲み干し、会計は100万円近い金額となった。
「ご馳走様です」
「あっ、刑子ちゃん。今年から大学院だけど、上様が織田家で雇ってくれるって」
「えっ、まじで……。何すればいいのかしら」
「向こうから画材持ってくるから絵描いたり、服のデザインとか色々頼むよ」
「はっ、慎んでお受けいたす所存」
「頼んだぞ」
この他に、鬼墓亜梨沙も雇われの身となった。こうして、今日も牛肉を堪能する信孝だったのである。
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