第331話 織田信孝、現代へ行く④

 2日目の朝、本日は土曜だ。犬神霊時は前日、直行直帰の取材だとして会社に出勤せず、電話・メール・タスク管理ツールなどで、仕事を済ませていた。


 犬神はオカルト雑誌の編集長だが仕事面において合理主義の権化であり、会社へは仕事のためでなく、給料を貰う必要上、行くと豪語して憚らない。


 実際問題、会議や打ち合わせはオンラインの上、仕事の進捗もネットで共有している。記事を書いたり、ネタ探しなど、別にオフィスである必要はない。


 そんな犬神が目覚めた時、既に幸田広之と織田信孝の姿は無かった。広之は信孝を連れ隅田川沿いを散歩した後、コンビニへ入店。信孝にとっては生まれて初めてのコンビニだ。


「ほぉ、数百年後であろうと、やはり日本人は握り飯が好きなようじゃな。鮭、梅干し、昆布、おかか、たらこ、明太子はわかるが、ツナマヨとは……」


「鮪の水煮をほぐし、酢の入った玉素(和食で使ういわば酢抜きのマヨネーズ)で和えたものでございます」


「似たようなものは、そなたの屋敷で食しておるな。サンドイッチ、スパゲッティ、カレーも見覚えがあるわい。されど、冷めていては美味くなかろう」


「上様、あちらに箱がございます。電子レンジと申しまして、あれに入れると、熱くなりますのでご安心くだされ」


「昨日より驚きすぎて疲れたわい」


 次に信孝はパンを眺めた後、冷凍食品やドリンクなどつぶさに見て回る。そして、カップ麺を発見。


「おお、左衛門よ儂が好きなチキンラーメンもあるではないか。それにしても様々な物があるのぉ」


 外国人が日本のコンビニを見て驚く動画と同じような反応の信孝は、迷いつつ朝食やおやつとして、和風ツナマヨおにぎり、あんバター塩パン、肉饅、からあげチャン、抹茶アイス、カフェラテ、特濃珈琲ミルク、サイダーなどを買って帰宅した。


 2人が帰ると、犬神も起きており、試食会となった。


「あのような店が丑三つ刻でも開いておるのは良いのぉ。夜であっても、町はあれだけ明るい。いやはや、向こうに戻り、話しても信じて貰えぬであろうな。それにしても、この肉饅は美味なれど、左衛門の屋敷で食べる方が上であろう」


「上様、手間と銭の差でございます。それがしの屋敷で作る肉饅は何刻も煮込んだ豚肉を使っておりますれば、比べ物になりませぬ」


「物によるのじゃな。ともかく、エアコンや冷蔵庫は何とかならぬのか」


「幸田君、冷凍・冷蔵の歴史をネットで検索すればジエチルエーテルの気化による冷却で氷が出来るというのは中学生でも分かるだろ……」


「おお、流石は犬神じゃ、何とかなりそうであるか」


「犬神さん、アンモニアや臭化リチウムを作るのは難しいですからね。そうなると、吸収式じゃなく密閉式でジエチルエーテルを使いたいところですけど、あれは揮発性高い上、引火しやすいでしょ。戦国時代の未熟な技術による密閉容器作ったら、店や家庭なら直ぐ爆発しちゃいませんか?」


「確かにな……。効率だけ考えて手動じゃなく、蒸気機関とかいう馬鹿な発想したら、爆発するだろ。ということは石炭からアンモニア作るしかないのか。そこが難しいよな」


「蒸気を利用した吸収式冷却装置を作れないものですかね。無論、温度や効率は悪いでしょうけど」


「竹原のルートであたってみるか」


「いや、気乗りしませんね。冷却というのは人類の夢ですけど、同時に色々危ないですよ。やはり、人類が未熟なうちに手を出さない方が無難かも知れません」


「確かにそうかも知れないな。19世紀に核開発とかされた日には猿の惑星もんだろ」


「上様、申しわけございませぬが、向こうで作るのは色々と難しく……」


「承知した。世の理に叶わぬのであれば、無理をせぬ方が良かろう。それはさておき、珈琲は何とかならぬのか」


「バンテンなどに木を植えましたが、収穫まであと3年以上掛かりましょう」


「然様であるか……。何事も時を要するのぉ」


 テレビ番組などを見つつ、昼近くに外出する3人であった。


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