第330話 織田信孝、現代へ行く③

 織田信孝を乗せたミニバンは新宿へ到着した。


「犬神よ、あの楼閣の上に大きな化け猫が居るではないか。皆の者、笑っている場合ではなかろう」


「上様、あれは動く絵でございますので、ご安心を」

 

「何じゃと……。あれが絵なのか。信じられぬな」



 そこを「バァ〜●ラ、バァ●ラ、バァ〜●ラ、求人、 バァー●ラ、バァ●ラ、高収入」などと音楽を流しながら例の宣伝カーが道路を走って行く。


「あれは一体……」


「若いおなごが酌して饗すような店で働く事を促しております」


「女衒と変わらぬではないか。ご法度ではないのだな。おなごの権利や平等とやらにはうるさいはずであろう」


 少しややこしい話なので、竹原が色々と説明をする。


「なるほどのぉ。我らの世は、まだまだ至らぬが、奴婢や人買いを厳しく取り締まり、死罪も禁じた。全てが劣っているわけではないという事であるな。それにしてもおなごであろうと、皆大きすぎるわい」


 この後、書店やゲームセンターなどを覗き、高級回転寿司屋へ入店した。既に、先乗りしていた肉山298と小塚原刑子が予約札を持っている。


 予約や勘定の自動システムを見て感心する信孝であった。程なくしてして8人掛けのテーブルへ向かう一行。皿の色により価格は違う。300円、500円、800円、1500円、3千円と、かなり容赦のない価格設定だ。


 客の半数以上が海外からのインバウンドである。平均客単価は2万円を超えており、お手頃な普通の寿司屋では太刀打ちできない。無論、マシンでなく板前が握ってくれる。


 インバウンド客をターゲットにしており、店内はモダンな内装で、ウエイトレスの容姿はモデル顔負けだ。寿司や一品料理もジュレ、ヌーベ、ギモーヴ、キャビア、トリュフ、フォアグラ、金箔を使ったり、アメリカの高級寿司バーもどきである。


 本日のネタは、本鮪・ノルウェーサーモン・のどぐろ・鰤・金目鯛・平目・さより・槍烏賊・鰊・ずわい蟹・真鱈の白子・寒鯖・車海老・エゾバフンウニ・真鯛・穴子などだ。


 また、銚子風のとろける伊達巻、海鮮茶碗蒸し、土瓶蒸しも、この店の名物といえよう。


「左衛門よ、向こうでは何故、握り寿司を作らぬのじゃ」


「はっ、寄生虫という虫が魚に付いておりまして、取り扱いによっては腹を下します。我が屋敷で生食いたす魚などは、血抜きや運んでくるのに、注意した上、哲普やお初などが、寄生虫の有無を十分確認しているからこそ、大事となりませぬ。握り寿司の場合は大半が煮る・蒸す・焼く・漬けるなどといった手間が必要でして……」


「もうよい、承知した。周到なそなたの事じゃ、先ずはちらし寿司や温寿司などで慣らし、万事整った後、握り寿司を出すつもりであろう」


「ご明察の通りにて候う」


「それにつけても、美味であるな。夢に出てきそうじゃ」


 信孝はそういうや、本鮪の大トロにキャビアがのせられ、ヌーベが添えられた物を口に入れる。


「肉山、口の中で溶けて無くなってしまった。まだ足りぬぞ」


「ははっ上様、ただいま注文するでござる。しばしお待ちを」


 信孝はシャンパンを飲みつつ、楽しそうに流れるレーンを眺めた。その後も十分食べた信孝と一行は回転寿司屋を出て歌舞伎町やトー横などぶらぶらしながら、職安通り沿いにあるドン・●ホーテへ突入。


 自動炊飯器やホットプレートに驚きつつ、1時間程見て回り、区役所通りを南下。またもやトーヨコ周辺に戻り、サウナへ入った。


「左衛門よ、これはなかなか効くのぉ。体より悪いものが汗と一緒に出るようじゃな」


「上様、垢すりと按摩も是非お試し下さいませ」


「垢すりとは何じゃ」


 その後、ドライサウナを出た信孝は汗を流し、垢すりやオイルマッサージを行う。


 2時間程滞在して出てきた頃には暗くなりつつあった。そして、完全個室制の超高級焼肉へ入店。キンキンに冷えた生ビールや焼肉を堪能した。


 焼肉屋を出ると、信孝・広之・犬神の3人はタクシーで犬神ハウスへ帰宅。こうして、慌ただしい初日が終わった。



 


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