第329話 織田信孝、現代へ行く②

「上様、専用のスマホとiPadをご用意したでござる」


 肉山298がスマホケースに織田木瓜がプリントされた物を差し出す。歴史学者である竹原のアドバイスなのか直接手渡しでなく、お盆にのせている。


 ちなみに織田信長は少なくとも7種類の紋を使っていた。代表格は織田木瓜紋だが、これは主家である斯波氏より下賜されたという説と朝倉家の三つ盛木瓜が姻戚関係を結んだ際に送られたという説がある。

  

 改変された世界で織田家は織田木瓜紋、幕府としては信長が足利義昭より授かった五三桐紋、国としては、やはり信長が正親町天皇より授かった十六葉菊紋を使い分けていた。


 幕府御用船には国旗の日章旗と五三桐紋が掲げられている。また近衛前久が乗船する場合は五三桐紋は外され、十六葉菊紋となっていた。


 「これが話に聞くやつじゃな……」


  肉山がこっそり信孝のスマホへ電話を掛けた。


「おおっ…。震えておるぞ。左衛門よ、この音は何事じゃ」


「上様、『応答』を押してくださいませ」


「上様でございますか。肉山でござる」


 ビデオ通話で肉山の顔が映し出された。


「何と、肉山。そちは何処におるのじゃ」


 肉山が隣の部屋より顔を出す。

 

「声だけでないとは……。実に奇怪。左衛門、これは誰しも持ってるというたな。ならば、イスパニアに居る者と顔を見ながら話せるという事か?」


「仰る通りでございます」


 犬神霊時がPDFを予め作っておいた信孝のメールアドレスへ送信し、音が鳴る。幸田広之は手慣れた操作でファイルを開いてみせた。他にもチャットやカメラ撮影からの画像送信など、ひと通り手本を見せる。


「離れていても書状が瞬時に届こうとは……。されど、かような物があれば、家来は忙しくて敵わぬな」


「流石、上様。勤務時間外に仕事の電話やメールを出すのはマナー違反でござる」


「肉山よ、西洋の言葉はよく分からぬが、嫌がられるのだな」


「然様でござる。ちなみに上様、『マップ』と書かれたところをポチッと押してくだされ」


「うむ、これじゃな。おおっ……これは図面であろう」


 Googleマップを開いた信孝が驚きの声を上げる。すかさず広之が使い方を説明した。


「居るところが分かるとは……。行き先まで案内してくれるのじゃな。左衛門よ、かようなも物があれば戦にならぬであろう」


 広之はGPS、衛星、レーダー、ステルス、ドローン、AIなどについて説明する。


「雲がどこにあるのか、台風が何時頃来るだの然様な事まで分かるのじゃな」


 この後、戦争映画の戦闘シーンを色々と見せられ、食い入るように見つめる信孝であった。さらに信孝は英数字を小塚原刑子に叩き込まれる。そして、外出するためEVに乗った。


「犬神、33と書いてあったが、33階であるな」


「然様でございます」


 そこへ、竹原が割って入る。


「上様、岐阜城天守のおよそ6倍でございます」


「実に恐ろしいものじゃ」


 先に降りていた鬼墓亜梨沙がミニバンで待っていた。勝手に開くドアへ驚く信孝だが靴を脱ぐのか確認するなど、抜かりはない。


「これは、乗り心地良いのぉ。駕籠とは比べ物にならぬ。左衛門、一刻で何町程走れるのじゃ」


「この速さで道が空いており、止まらねば、20里程でございましょうか(1里=約4km)」


「我らは、大坂から岐阜へ行くのも大変てあるが、1日で着くというわけじゃな。左衛門が火事や車が走る時の事を考え、大坂の道を大きくしたのは何れ褒め称えられようぞ」


 東京をドライブしながら食い入るように外の景色を眺める信孝であった(レクサスの6人乗りミニバンを想定しています。なので肉山と小塚原は乗っていません)。

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