第328話 織田信孝、現代へ行く①
「何……。左衛門よ、それは誠なのか?」
「未来の妖力者が夢の中で伝えてきました。此度はそれがしの他に、もうひとり呼びよせられるそうでございます」
「明日じゃな。誠に楽しみである」
大坂城で幸田広之は織田信孝へ現代へ行ける事を告げたのであった。以前から鬼墓亜衣子と犬神霊時の導きだした理論によると、現在広之が居る過去は、時系列上の繋がりは無く、本来の時間軸から発生した過去の複製であるという。
平行世界や精巧な仮想現実の類であり、実際にこれまで過去と同じ世界へ吸い込まれた広之を何度も元の世界へ呼び寄せてきた。
以前より、複数呼び寄せたり、鬼墓たちが過去と同じ世界へ来る事も可能だとされていた。しかし、ここにきて、いよいよ実現出来る運びとなったのである。
ただし、鬼墓たちが過去と同じ世界へ来て戻るには後継者である鬼墓亜梨沙(姪だが鬼墓の養子となっている)の協力も不可欠なため、まだ準備が整ってない(発展途上のため、鬼墓にはまだ及ばない)。なので、今回は広之以外の人物も現代へ呼ぶという一種の実験だ。
そのため、広之から説明を受けた信孝は織田信之(元三法師)へ万一の事あらば、後を頼むと告げるなど、準備を行なった。
こうして翌日の午前9時頃、幸田家を訪れた信孝は広之と一緒に中庭の隅にある小さなお堂へ入り、呼ぶまで誰も近寄るなと厳命。その後、鬼墓より渡された念を注入してある石を持ち、横たわる。そして、目を開くと犬神の部屋であった。
「幸田君……。このお方は上様かな」
「はい、上様にてございます」
「左衛門、ここは何処じゃ」
「上様、犬神の屋敷にてございます」
この後、広之は鬼墓亜衣子、鬼墓亜梨沙、犬神零時、肉山298、小塚原刑子、竹原元教授などを紹介した。広之も亜梨沙と会うのは15年以上振りだ。小塚原刑子は空気を読まず、記念撮影などしている。
「犬神、そちの屋敷はまだ春先だというのに暖かいのぉ。されど炭の匂いもせぬ」
鬼墓亜梨沙と小塚原刑子以外は織田家より俸禄が出ており御用学者のような形だ。それでも、一応は家臣である。名前を呼ばれだ犬神が嬉しそうに答えた。
「はっ、上様。我が屋敷はエアコンというもので室内を暖めております。あそこにあるのがエアコンと申しまして、外の空気を吸い込み温めておる次第」
「何と……。左衛門、これは向こうで作れぬものなのじゃな」
「然様。長き道程を要しまする」
さらに信孝は肉山に案内され、外の景色を見て仰天した。
「何という高さじゃ。安土城の天守より高いではないか。他にも高い塔が幾つも……」
犬神の家は隅田川沿いのタワマンで最上階のため見晴らしが良い。無論、スカイツリーもよく見える。用意されたデリバリー注文によるスタバの珈琲や朝マックを食べ終わると、予め肉山が買っておいたユニクロの服へ着替えた。信孝はご満悦だ。
「ほぉ、書物で此方の着物は見ておったが、見るのと着るのでは大違いじゃな。肌触りも良く、伸びるではないか。褌も穿いておらぬようだしのぉ」
そこへ、肉山が100インチの大型テレビを付けた。
「これは何じゃ」
「上様、テレビと申しまして。細かい事はさて置き、様々なものが映し出されます」
広之が説明してる横で、犬神が録画された「大阪城燃えゆ」という数年前劇場公開の映画を再生する。
「淀というのは於茶々の事であろう。秀頼というのは筑前の倅であるな。それは良いとして、何故家臣が主人の諱を呼んでおるのじゃ」
待ってましたとばかりに竹原が答える。
「今の世では諱しかございませぬ。また仮名もありますが、此方は己より上の方へ使いません。上様が今ご覧になられているのは戦国の世を描いた映画というものですが、今の人々でも分かりやすいよう見せております」
「なるほどのぉ。馬も明らかに大きいが、今の世では小さい馬は廃れておるという話は左衛門より聞いておった。それにしても於茶々は実に憎々しいのぉ。頭がおかしいみたいではないか。駿府殿(徳川家康)も男前であるが、いけ好かぬ」
映画からまたワイドショーへ戻し、神妙に眺める。
「左衛門よ、この者たちはまつりごとを悪しきようにいいたてておるようじゃな。誠に信じ難い」
こうして、信孝の長い1日は始まった。
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