第324話 バンコクの発展とアユタヤ王朝

 小西行長は乾季のバンコクで次々と普請に励んでいた。今やバンコクの人口は20万を超えている。日本人町・シャム人町・漢人町・琉球人町・クメール人町・大越人町(北部)・広南人町・ラーンサーン人町・ラーンナー人町・シップソーンパンナー人町・麗江人町・ジョホール人町・バンテン人町・呂宋人町・インド人町・エジプト人町・トルコ人町・ペルシャ人町などが存在し、アジア随一の国際都市となっていた。



●人別帳記載の国籍と人数

日本人      7万人

シャム人     3万人

漢人       4万人

琉球人      6千人

クメール人    5万人

大越人      5千人

広南人      1万人

ラーンサーン人  1万人

ラーンナー人   5千人

西双版納人    5千人

麗江人      5千人

ジョホール人   1万人

バンテン人    1万人

呂宋人      1万人

インド人     1万人

エジプト人    4千人

トルコ人     2千人

ペルシャ人    2千人

その他      数千人

合計       29万余



 史実においてはナーレスワン大王がミャンマーへ侵攻した際、両軍の兵数はそれぞれ1万程という記録である。現在、バンコクの最大動員数はおよそ6万であり、そのうち日本人が3万だ。


 その日本兵3万が戦闘要員で、戦いにおいて逃げるような者は居ない。いわば戦闘のプロ集団だ。それもほぼ銃装備の上、集団行動や規律も整っている。


 シャム国軍とは戦闘力が比較にならない。その上、バンコクに何かあればカンボジア・呂宋・シャンバラ(ミャンマー)・マレー半島へ駐屯している兵も増援される。そもそもアユタヤ王朝は中央集権化が完成されておらず、室町幕府に近い。


 バンコクとアユタヤの関係は表面上は友好的ではあるが微妙な雲行きだ。日本との貿易でアユタヤ王室が出せるのは基本的に米だけである。本来、全て王室を通す事になっているが、米以外は有名無実化されて久しい。


 そもそも、以前は輸入に頼らねばならなかった。しかし、バンコクの発展により交換する物さえあれば大抵の物はいつでも調達出来る。つまりは王室の一元管理による独占事業が成立しない。


 税として集めた米はバンコクが必要な分だけ買い取ってくれる。それも、年々需要は薄くなり、値は下がる一方だ。さらに、問題なのは米と引き換えた商品を売る場合、十分利益が出ない。


 バンコクが各地へ流通網を広げ、産物の買い付けが行われている。各地の諸侯はバンコクに従い米以外の換金作物生産へ力を注いでいた。


 特にアユタヤへ米を送れない遠方の地域程、アユタヤの支配力は弱くバンコクの独壇場となっている。ナーレスワン大王は各地を攻めまくっているが、実質的な実入りは殆ど無い。


 バンコクは煙草の葉・茶・藍・紅花・茜・月桃(染料)・万寿菊(マリーゴールド)・ミロバラン・甘草・うこん・当帰・ハッカ・胡椒・砂糖黍・大麻草・芥子・からし菜・岩塩・絹・綿などの栽培を奨励し、買い付けている。


 バンコクはおびただしい商品で溢れかえっていた。砂糖・塩・魚醤・油・味の友・煙草・農機具・漁具・薬・陶磁器・絹織物・綿織物・麻織物・香料・香油・包丁・鉄鍋・石鹸・茶・染料・酒・硝子などだ。


 アユタヤ王室についてはナーレスワン大王に世継ぎがいない。そのため弟であるエーカートッサロット公が次期王位の最有力者だ。エーカートッサロット公嫡男スタット親王へ小島兵部の娘が嫁いでる。織田信孝の姪にあたる人物だ。


 織田信孝の母は織田信長の側室になる前、小島家に嫁ぎ、その時生まれたのが小島兵部である。何れにせよ将軍信孝と同じ血を受けており、側近中の側近だ。


 史実のスタット親王は王の側近による讒言が原因で処刑されている。幕府にとってはそのような事態になれば望むところといえよう。


 無論、小西行長は史実を知らない。小島兵部の娘へアユタヤに豪勢な屋敷を建てた。スタット親王も入り婿のように、その屋敷へ住んでいる。


 屋敷内はシャム人より日本人の方が多い。そこで、スタット親王には日本語を始め様々な懐柔が行われていた。さらに、王朝中枢へ日本人も入り込みつつある。


 こうしてバンコクは拡大を続けながら、シャムの実質的な支配が進むのであった。


 


 

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