第322話 テキサスでの試み

 南新亜州で南星(ニューオリンズ)と並ぶ入植地が南郷(ヒューストン近辺)だ。トリニティ湾の奥にあるブルネット湾に隣接するベアー湖とそこへ流れ注ぐサンジャッキント川、さらにヒューストン湖に掛けて町が作られた。近くにリビングストン湖もあり農業にもってこいの土地である。


 グランドバンクを抱える東部入植地と異なり、魚天国とまではいかないが、入植者たちの助けとなった。



●メキシコ湾で取れる主な魚

マヒマヒ(シイラ) 春・夏・秋

キングマッカレル(鰆に近い) 春・夏・秋

鱸(シーバス) 春・夏

ブラックフィンツナ(鮪) 春・秋

レッドフィッシュ(大きいイシモチ的な魚) 通年

カタクチイワシ 通年



 昨年の秋には大量のじゃが芋やさつま芋を収穫している。米は残念ながらハリケーンの存在を考えると向いていない。ミシシッピー川沿いの適地に水田を拓くまでは貴重品となる。


 昨年の秋・冬には小麦やオーツ麦(広之が現代よりの持ち帰ったもの)も撒いており、春から初夏に収穫出来るはずだ。また、春になればとうもろこしも栽培する予定である。  


 これら以外にメキシコより大量の鶏と豚も持ち込んだ。年に2回程、いち度に20頭以上産む豚は瞬く間に大量繁殖するであろう。さらに、鶏も同様で次々に増えていく。


 しかし、家畜の天敵といえば鰐だ。かなり、大きな鰐が普通に棲息している。このため、鰐ハンターが次々と生まれた。皮も取れる上、身は唐揚げにして食べられている。


 馬の牧場も作られており、捕まえてきたマスタングの調教や馬具作りが行われていた。何れは馬車用に欧州より大型の馬を取り寄せ、マスタングの牝馬と掛け合わせる予定だ。


 アパッチ族(自称はインデなど多数)との接触も始まっていた。まだ、コマンチェ族が現れる前なので、テキサス平原は彼らの天下だ。主にバッファロー狩りを生業としている。有名なナバホ族も同類に近い。


 獰猛な戦士や他部族への略奪などで知られるのは騎馬民族化したり、コマンチェ族から南西部を追われ、ニューメキシコ方面や各地へ散って以降の話だ。


 スー族(ラコタ族の支族)にブラックヒルズ(サウスダコタ州とワイオミング州の境)を追われテキサス州へ南下してきたカイオワ族はコマンチェ族と同盟を組む。


 平原部に残ったのはカイオワ族と同盟したカイオワ・アパッチとリパン・アパッチのみで、乾燥地帯を略奪してまわった。


 カイオワ・アパッチはオクラホマ州、リパンはニューメキシコ州とメキシコ、メスカレロはニューメキシコ州とメキシコ、ヒカリヤはニューメキシコ州とコロラド州、チリカワはニューメキシコ州とアリゾナ州のチリカワ山地、西アパッチはアリゾナ州東部を縄張りとした。


 コマンチェ族やカイオワ族が南下しなければアパッチが略奪部族化する事もない。また、プレーリーやグレートプレーンズなどで野生のマスタングが繁殖したり、白人から馬を買う(あるいは略奪)などして騎馬民族化しなければカスター将軍の悲劇も起きないだろう。


 ちなみに西暦1876年に起きたビッグホーンの戦いは有名だが、それほど大きな規模ではない。カスター隊は僅か208名であり、部族同盟軍(スー族・シャイアン族・アラパホ族)にしても1800以上程度だという。


 アパッチ族は何れ牛を提供し、牧場と簡単な農業を軸とした定住生活へ促す予定だ。無論、強要はしない。また、アパッチ族などへの対応方針は以下の通りだ。



①マスタングを出来る限り回収する

②馬を渡したり売らない

③バッファローに極力手を出さない

④貿易ではバッファローやビーバーの皮を買う

⑤貿易において奴隷は買わない

⑥鉄砲や刀などの武器は売らない(与えない)

⑦労働させ対価を払う

⑧遊牧を辞めて農耕・牧畜を行う場合は手厚く支援

⑨彼らの信仰や文化を尊重する

⑩一旦、戦争になれば容赦しない



 白人がアメリカで行なった数々の悪行を挙げれば枚挙にいとまがないのは事実だ。しかし、原住民が常に平和を求めてみたないな話は願望でしかない。


 戦争や略奪もするし、奴隷売買さえ行う。白人の侵入以前に自分たちも、場合によっては他部族の土地へ侵入や移住をする。そうはいっても文明レベルでは古墳時代以前だ。


 独自の文字を持たず(19世紀にイロコイ語を表記するチェロキー文字と言われる表音文字が作られた)、金属加工も始まってない。西洋文明は遅れた文明に対して容赦ない反面、カスター将軍の敗死も、インディアンの恐怖や残虐さを強調する。


 銃武装した勇敢な兵が1万も居れば戦力差は比較の対象にもならない。優位な立場で、原住民たちとの互恵関係を築き、出来る限り彼らの自治を尊重すれば、そう滅多な事態は起きないというのが幸田広之たち現代人の結論だ。


 こうして、テキサスではアパッチ族との共存共栄への道が模索されるのであった(ヒューストンあたりはアタカパ族やカランカワ族の領域)。

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