第320話 東新亜州初代長官市橋長勝

 織田幕府はアメリカ大陸を新亜大陸とし、その上でメキシコから北を新亜、メキシコは暫定的にヌエバ・エスパーニャが引き続き使われた。  


 そして、史実における東部13州、アカディアから五大湖あたりまでの地域を東新亜州と呼称。中心地のボストンはマサチューセッツ族から取り、正中摂津と命名。


 東新亜州の初代長官となったのは織田家直参家臣である市橋長勝だ。長勝は道三・義龍・龍興と斎藤家三代へ仕えた後、織田信長へ降っている。


 先祖は大和源氏の祖となった源頼親であり、その末裔が美濃国池田郡市橋庄の地頭に任命されたのが、美濃橋氏のルーツだ。長勝は豊臣政権や徳川幕府において大名として家名を保ち、幕末まで続いた。ちなみに、母は前田家出身であり、前田利家とは従兄弟だ(そのような説に基づく)。


 長勝の仕事は山程ある。疫病対策、探検、測量、マサチューセッツ族各集落への接触や人数の把握、イロコイ連邦(モホーク族、セネカ族、オノンダガ族、オナイダ族、カユーガ族)やワバナキ同盟(アベナキ族、ミクマク族、ペノブスコット、ウィネパング族、マリシート族)との外交、物資の管理と現地調達、治安維持、原住民言語の調査、原住民の慣習調査、原住民の信仰調査、動植物の調査、各種の建築、工房の管理などだ。


 長勝の下には北海道や沿海州で原住民と接触してきた経験者も多数居る。さらに、史実における白人入植者と違い、最初から謎の地図、グランドバンクやジョージバンクの存在、森林以外の資源がほぼ無い事、存在する動植物、現地の気候、マサチューセッツ族に関する情報、原住民の種類・生活様式・統治形態・慣習・信仰など、ある程度把握していた。


 そのため、無用な誤解も無くスムーズな入植が可能だったのだ。試行錯誤というものがほぼない。マニュアルやテンプレに沿って修正するだけだ。


 マサチューセッツ族に対しては、農機具・調理道具・刃物・釣り具・薬・石鹸の供与以外に食物として米・麦・酒・茶・砂糖なども配られた。酒については免疫無い事を考慮しつつも有力な貿易品や通貨の代用とすべく配られたのである。 


 史実において、白人は酔わせた上で、土地の譲渡書へサインさせるといった行為を当たり前の如く行った。226事件で殺された元内閣総理大臣の高橋是清はアメリカ留学していた時、ホームステイ先に騙され、奴隷契約へサインし、葡萄園や牧場で奴隷として働いている。


 これが19世紀後半の話だ。17世紀前半とかならば、力づくで略奪や奴隷にする位は朝飯前だろう。形さえ整えば何しても許されるようなメンタリティであり、酔わせて契約書へサインさせるというインチキ行為は彼ら的には良心の呵責さえ無かったのかも知れない。


 幕府では白人相手に読めない契約書へ絶対サインするなと通達されている。政府間の公式文書でも、必ず日本語文書を用意し、それに相手がサインしない限り、応じない。


 脇坂安治なども各地で商人や土地の諸侯から奴隷契約、船や積み荷の譲渡など口頭契約させられた事もある。その場合、幕府の法度に背くが皆殺しという事も幾度かあった。緊急時の対応は指揮官に委ねられているからだ。


 さて、現在正中摂津は冬であるが、比較的海が穏やかな時、漁を行っていた。大西洋鱈・ハドック(タラ科でスケトウダラに近い)・鰊が主だ。


 大西洋鱈はほぼ真鱈であり干して保存食にする他、鍋や汁物として食べられる。ハドックは煮物・塩焼き・揚げ物などだ。やはり、干して汁物にする事もあった。


 これ以外に鱈子(いわゆるタラコ)も取れるので、塩漬けとする。鰊は油を取って絞りカスは肥料や家畜の餌、身欠き鰊などの他、新鮮な物は生で食べられた。


 他にも、帆立・蛤・北寄貝・ロブスターなども日本人の食卓に上がっており、食事で不自由する事はない。強いていえば味噌が足りない。


 また、麦で甘酒が作られており、貴重なビタミンや栄養源となっている。甘酒は原住民にも大好評だ。日本人から原住民へもたらされる物があまりに多く、ギブアンドテイクや分かち合うという点でやはり心苦しい。


 そこで、原住民はほぼ自発的に魚の運搬、炭焼小屋、甘酒作り、木材の切り出しと運搬など手伝っている。働く者には十分な食事を与え、賃金代わりの食物や物資も与えられた。


 これも、北海道でアイヌに対して行ってきた事と、ほぼ同じだ。仕事が終われば札を貰い、それを持って日本人の店へ行けば、酒が飲める。  


 こうして原住民と共存体制が出来つつあった。


 

 


 

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