第313話 丹羽長秀よりの報せ

 欧州からの早馬が遼東半島へ着き、そこから船で朝鮮半島沿いを南下し、九州へ到達。さらに瀬戸内を越えて大坂へ朗報がもたらされた。

  

 イスパニアの降伏を伝える内容だ。一般へは来年の夏以降伝える事になった。織り込み済みなので、予算、物資輸送、兵員補充などは問題ない。


 丹羽長秀の花押と印判が押された書状によれば、イスパニアを幕府の指示通り、共和制として、イタリア各地のイスパニア・ハプスブルク家領も同様だという。


 イスパニア国アンダルシア州マラガ県・カディス県へ地中海府と自由欧州同盟本部を設置。盟主はイングランド女王エリザベス1世、副盟主はフランス国王アンリ4世を据える事。

  

 同盟にスウェーデンも加えるべく働きかけるが、ネーデルラント南部(現ベルギーに近い領域)は微妙である事。トスカーナ大公国はフランスへ接近しているが、取り決めにより無視。リヴォルノのフランコ港を利用するに留めている事。


 東露斯亜やアガルタ州への移行とエテルニタスの建設も問題ない事。さらに、来年帰国する際、ローマ教皇クレメンス8世の使者として数人の枢機卿、イエズス会総長クラウディウス・アクアヴィヴァの使者、イタリアの商人や銀行家、同盟各国の使者並びにフランス貴族、イングランド貴族、スウェーデン貴族なども同行させる事が記されていた。


 これを読んだ幸田広之はほぼ予定通りに進んでいる事へ胸を撫で下ろす。しかし、場合によってはオーストリア・ハプスブルク家やメディチ家の一族が来る可能性もある。

 

 中世の欧州貴族は手掴みが当たり前のようにいわれており、落としどころを見つけなければならない。やはり、全体的には取り分けるとか、パンをスプーンや皿代わりなのだろう。


 以前、肉山298に聞いた話では、この時代フォークはまだ普及してないそうだ。スパゲッティにしてもフォークの普及前はスプーンやナイフを使うか、手掴みだったらしい。


 なので、フォーク普及までショートパスタ(いわゆるマカロニとか)が主流だったという話も聞いた事ある。何れにしろ磁器、銀のトレー、金銀のスプーンやフォーク、レンゲなどを駆使して驚かせたい。


 食材としてはフォアグラも用意した方がいいだろう。あとは、本格的な食事ではない酒宴などの場合、ピザ、カナッペ、サンドイッチも活躍しそうだ。


 そこで、広之は信孝と朝廷への報告が終わった数日後、カナッペと甘くないタルトを試作する事にする。信孝夫婦以外に、寒くて帰れないから春頃帰るなどといってる嶋子たちも招き試食会を開いた。


「左衛門よ、ピザや肉饅のように手で食べれるそうじゃな」


「はっ、欧州人は貴人でさえ手で食す事が多いと聞いておりますゆえ、酒を飲みながら軽く食せる物を試しに作ってみました」


「握り飯や戦場ならまだしも手にて食べるとは欧州人は野蛮でございますな」


「嶋子殿、我らは唐より伝わる箸で食しますが、天竺なども手を使い、胡も平たいパンを皿代わりといたします」


「国によって違うのじゃ」 

 

 すかさず、竹子も追撃する。


「手や膳が汚れず食せればよいか、と」


「左衛門のいうとおりじゃ。何れが正しいというものではあるまいからのぉ。汚れず、美味なれば、それでよい」


 そこへ皿が運ばれてきた。各自の皿に取り分けられたカナッペとひと口大のタルトが並んでいる。先ずカナッペは細いフランスパンを切った後、ラスクのように焼いてあった。


 カナッペは以下の通りとなる。①生ハムとチーズ②鮭の燻製とチーズ③茹で卵とじゃが芋④鮪のツナマヨ⑤海老とじゃが芋⑥豚脛肉煮のマスタードソース添え⑦ポークパテ⑧鶏肉と鮭のコンフィ。


 さらに、カナッペとは別の皿へタルトが並ぶ。①ベーコンとじゃが芋②ソーセージとじゃが芋③ラタトゥイユ④豚と豆の煮込み⑤卵とチーズ。


 皆笑顔でワインを飲みつつ、次々と食べる。まだ、このような料理に慣れてない嶋子たちもこわごわと食べるが、美味しいようだ。


「左衛門よ、何度もいうが、かような物があるのならば、早う出して欲しいものじゃ」


「お口に合ったようで、何より。続きまして甘味を……」


 今度はデザートのタルトが運ばれてきた。①プリン風②南瓜プリン風③薩摩芋④梨⑤あんバター。嶋子はあんバターへ手を差し出し掛けたが、他の者は南瓜プリンなので、慌てて同じ物を取る。


 嶋子軍団はひと口食べて驚く。南瓜は食べた事あるが、もはやまったくの別物だ。何をどうすれば、こんな味わいになるのか想像も出来ない。


 薩摩芋にしても裏ごしされ無塩バターや生クリームが合わさっている。上に大学芋が添えられており、未知の味わいだ。


「嶋子殿、お口に合いますかな」


「悪くはありませぬ」


 酒を飲まない子供たちには薩摩芋ラテが出され、好評だ。こうして呉越同舟の試食会は無事に終わった。



 

 

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