第298話 幸田広之、現代で夏休み③
中野のダイニングバーで2時間ほど飲み食いした幸田広之、犬神霊時、肉山298、鬼墓亜衣子、小塚原刑子の5人は鬼墓の運転するミニバンで中野市内にある肉のハナマサへ向かった。
これから、檜原村にある犬神の親が所有する別荘へ行くためだ。24時間営業のハナマサで食料品を買い込んでから向かう。鬼母は運転するため、酒を飲んでない。
酒、炭酸、お茶、ミネラルウォーター、肉、野菜、チーズ、珍味などを買い揃え、氷は最寄りのコンビニで調達する手筈だ。最寄りといっても檜原村にはコンビニが無いため、中央道の上野原ICで降りた後、近くのコンビニへ寄って、氷やビールなど買い、檜原村を目指す。
こうして、数時間後に別荘へ着いた。先週、犬神の兄弟が使って居るため、とても綺麗である。本格ミステリー小説に登場する連続殺人事件が起きるような洋館だ。小塚原刑子以外は何度も来ている。
「えっ、何この家凄〜い。金田●少年の事件簿とかなら、3人くらい亡くなりそう。犬神荘殺人事件とか洒落にならないし」
「刑子姫、もう時期突然の大雨が振り、橋は流され、崖崩れで、外界から孤立するでござるよ」
「スマホがあるから大丈夫で〜す」
「いや、ここは圏外だね。スマホのキャリア通話は駄目だけど、スターリンクあるから、ネットは問題ないよ」
犬神が他人事みたいに呟く。
「あっ本当だ……。逃亡中の殺人犯やゲリラとか現れたらどうするのよ」
「今どき、中南米でも山岳ゲリラなんてあまり居ないだろうけど、一応この別荘には猟銃が保管されてるよ。まだありますよね?」
「幸田君、そりゃまだあるよ。そもそも猟銃なんて狩猟で使うわけだから、置いとくならここが一番でしょ。それはそうと298君、風呂入れるよう準備してくれよ」
「様子を見てくるでござる」
「やば……。それって本格ミステリーなら、完全に死亡フラグじゃない」
「刑子姫、実は前から好きだっただでしゅ。結婚して欲しいでござる」
「298君重ねるね。じゃ僕も…。この中に殺人鬼が潜んでるかも知れないから一緒に居られるか! 僕は自分の部屋で寝る」
「ほう、幸田君もフラグ立てたね」
「犯人は重要なミスを犯している。後で話すわ」
鬼墓も悪ノリしてフラグを立てる。
「そういえば、幸田君がまだ学生の時、夏休みに犬神憑きの取材で西日本へ行ってもらったなぁ」
「横溝作品でお馴染みの犬神ですけど、その当時調べた限りでは姓としては見つからず。で、犬神憑きを探るため、とかでしたよね。経費の節約で交通費は青春18きっぷ……」
「ついでに青春18きっぷで行く西日本の心霊スポットも書いてもらったんだよ」
「考えてみれば、あれが初めての本格的な取材旅行でした」
この後、軽く飲みつつ、早めに寝る5人であった。翌朝、軽くハイキングした後、犬神荘の裏で渓流釣りを楽しむ。ヤマメ、ニジマス、イワナなどが釣れる。
「刑子君、後で298君ピザ焼いてくれるそうだ。彼のピザは優勝レベルだから美味しいよ」
「それ、楽しみ〜」
「幸田氏もあっちで夏場に渓流行ったりするでござるか」
「河内や摂津の奥へ行くよ。村人が数百人くらい並んで平伏してるけど。用意させた川魚焼いて食べたり……」
「幸田さん、それって淀君や春日の局も一緒なんですよね」
刑子がルアーを巻き戻しながら、広之に尋ねる。
「2人共、毎年楽しみにしてるよ。夏場、渓流で食べる川魚、田楽、素麺は格別だからね」
何匹か連れたところで、いよいよ肉山298が食事の支度に取り掛かる。ピザ生地を捏ねたり、肉の下ごしらえなどだ。そして、焼肉用の肉を焼き始める。アヒージョも用意されていた。みんなワインを飲みながら次々に食べていく。
「鬼母さん、こっちには来れそうですか」
「まだ、少し自信ないわね。一度、広之さんを現代へ呼び、その3日後私たちも向こうへ行き、また3日後現代へ確実に戻らないと駄目だから、相当体力や集中力必要なのよ。ただ、広之さん以外の人も一緒に呼んで、送り返すのは出来ると思うわ」
「えっ、それなら信孝や三法師(信孝之)を現代へ連れてくる事も出来るんですね」
「私が念を入れた石や札を渡すので、連れて来たい時に持たせて頂戴」
「えっマジでござるか。リアル将軍様が現代へ……。出来れば茶々や春日の局も見たいでござる」
「おいおい298君、それなら普通は家康や秀吉とかじゃないのかい。幸田君もあまり多くに知られても迷惑だろうしな」
「犬神さん、もしあっちへ行けるようになったら私もお願いします」
「街なかで記念撮影とかはやめてくれよ」
そうこうするうちに、肉山298はピザ生地を伸ばし、牛肉を煮込んだトマトソースをたっぷりのせ、燻製にしたにんにく、ジョンソンヴィル(ソーセージ。再度燻製にしたもよの)をひと口大に切ったもの、日陰干しにしたトマト、じゃが芋、玉葱、ピクルス、チーズなども加え犬神荘備え付けのオーブンで焼く。焼き上がりにハーブが散らされた。
「298君のピザ、久々に食べたけどあいかわらず美味いね」
照れつつ肉山298はアヒージョの残りにチーズを加え溶かしていた。
「さあ、幸田氏ピザにこれを漬けて食べるでござる」
「こりゃいいよ。ピザが飲める」
皆んなして、飲まんばかりにピザを食べるのであった。こうして夏の避暑を楽しんだ広之は翌日過去へ戻ったのである。
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