第297話 幸田広之、現代で夏休み②

 中野のダイニングバーで鬼墓亜衣子や小塚原刑子と合流した幸田広之たち3人は飲み始めた。岩牡蠣のオイスターバー、ポルボ・ア・フェイラ、エンパナディージャ、オリーブの炒め物、チーズなどが並ぶ。


 ポルボ・ア・フェイラは蛸を茹でて、塩、オリーブオイル、パプリカ粉を加え、和えただけのシンプルなスペイン・ガリシア料理だ。エンパナディージャはスペイン風のパイで中身は豚足と豚肉が入っている。


 小塚原刑子は広之の素性を既に教えられていた。最初は冗談だと思っていたが、目の前で突如現れる広之を見たからには信じる他ない。無論、同じ業界の大先輩である広之の事は知っていた。


 思い込みで亡くなった人物だと認識しており、そういう場合は案外気づかない。そのへんは目の前に居るのは貧乏旗本の部屋住みで、まさか上様だなんて思わない現象と似ていよう(無理矢理ですけど)。


「この蛸ってスペイン料理なんでしょ。あっちの料理って素材本位というかシンプルで美味しい」


「刑子姫、そりゃイベリア半島やイタリア半島は気候も温暖だし、食材も恵まれているでござる。魚も北の方みたいに鱈と鰊頼りみたいな事もないし」


「298君のいうとおりだし、イベリア半島はイタリアに負けないグルメ先進地域ですよ」


「幸田さん、あっちで何食べてるの?」


「向こうでもチーズやパンは食べてるし、パスタやおピザとかも。蛸は茶葉で蒸し焼きにするとか、色々実験してるね。蛸といえば、298君に教えてもらった味噌漬けにしたけど信孝や五徳も喜んでたよ。ガリシア風やカルパッチョもそれなりに食べてるけど、流石にドンピシャではないかな」


「幸田君。それにしても欧州の方がどうなってるのか気になるね。スペインは無くならないにしても、共和制へ移行だろ」


「実際はどうなるかわからいですけど、官僚機構は残し、内閣と議会でまわします。それが駄目なら選挙で王様選ぶポーランド・リトアニア方式。無論、立憲君主ですけど。そのへんは丹羽長秀が何処までやれるか次第。アンリ4世やエリザベス1世とか只者じゃないから、少し心配ではあります」


「何とかするしかないな。それとファラオの運河はどうだい」


「トルコの許可は得ているので今年中に着工すると思います」


「えっ、何それ〜」


「古代に紅海と海路方面を結ぶ運河があったらしいね。今、ラクダのキャラバンで往来してるけど大変らしくて。そこで運河作ろうかな、と。凄い数の人夫使うから、そのまま屯田兵みたいにしちゃえば一石二鳥だし」


「普通にスエズ運河じゃ駄目なんですか」


「駄目というか、やはり難しいのさ。スエズ運河は海水が流れ込む。しかし、ファラオの運河ならぬ安治の運河であれば淡水。運河沿いで葡萄、デーツ、西瓜、メロン、サボテン(食用)、麦、とうもろこし、ソルガム、豆、綿花など育てられる。水さえあれば乾燥地帯も何のその。なあ幸田君」


「聖帝十字陵とか出来そうな勢いでござるな」


「エジプトとインダス川流域は重要ですね」


 広之は、そういうと夏牡蠣を流し込んだ。


※第298話 幸田広之、現代で夏休み③へ続く

檜原村にある犬神の別荘へ行き温泉、釣り、BBQを堪能します。




 

 

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