第290話 大公の姫
スイスを訪れていた幕府の調査団と、同行していた近衛前久を始めとする
ある小さな大公領のようだ。小さな山あいの街道を馬で移動していたところ、女性の乗った馬が走り抜けて行く。その後を厳つい出で立ちの集団が、やはり馬で追いかけて行った。
「飛鳥井さん、馬に乗っていたのはおなごでおじゃりますな」
「近衛さん、さようですな。如何されましょう」
「無論、助けるでおじゃる」
そういうや、近衛前久と飛鳥井雅庸は馬で追いかけた。どうも馬に乗った女性は気を失っている様子で動かない。かつて上杉謙信と関東の戦場を駆け抜けた前久は馬の扱いに長けている。
やがて、女性の馬に追いつき相手の方へ乗り移った。幕府一行も前久の腕前に驚いている。しかし、馬はバランスを崩し、道脇の草繁る斜面下へ落ちていく。
女性はまだ年端もいかない少女で目覚めると気を失っている前久へ湖の水で冷やすなど手当した。飛鳥井雅庸や幕府一行が斜面を降りて行くと、湖の方から来る舟に射撃され、動きを止める。
舟から沢山の男たちが降りて、少女を乗せると去っていった。しばらくして目を覚ました前久に飛鳥井雅庸が声を掛ける。
「近衛さん、無事でおじゃりますな」
「どこぞの姫君のようなおなごは?」
「それが面目もおじゃりませぬ。舟で連れ去られてしまい……」
「飛鳥井さん、これを見るでおじゃる」
前久は少女の残した白く長い手袋の中から紋章の刻まれた指輪を見つけた。それを、まざまざと見た前久はにやりと意味有りげに微笑む前久。
「これは欧州の家紋……。高貴なおなごでおじゃろう」
「何かの御家騒動でおじゃりましょうか」
「これは、少し面白うなってきたでおじゃる」
この後、一行はレストランに入った。ミートボールのスパゲッティとワインを注文する。ミートボールのスパゲッティはこの店の名物らしい。
豚の肉団子を赤ワイン、玉葱、香草、バター、クリームなど加えて煮込みスパゲッティと和えたものだ。店の女中が料理を運んで来ると、前久が手にしていた指輪を見て声をあげた。
「あっ、それは大公家の紋章……。もしかして、貴方たちも結婚式を見に来たの?」
フランス人の通訳を介し、先程の少女は亡き大公の娘クラリュスで伯爵と結婚するらしい事が判明。その晩、宿で襲撃を受けた前久は城へ忍び込むと言い出した。
その後、前久の代わりに忍び出身の密偵が城へ潜入、そこで偽の銀貨工房を見つけ出した。同行しているフランスの貴族によれば、前から偽銀貨の噂があったという。
数日後、結婚式に乱入した前久たちは伯爵家の親衛隊と戦い、クラリュスを助け出した。伯爵は大公暗殺の罪で逮捕され、大公領に平和が戻ったのである。
こうして前久はクラリュスに別れを告げ、ネーデルラント目指し、旅立った。
※次回ではありませんがフランダースに行くと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます