第280話 丹羽長秀とブランド戦略
カイロで連合軍を発足させた丹羽長秀は連日多忙を極めている。エジプトの有力者による訪問が後を絶たないためだ。これにはエジプトの抱える複雑な事情が関係していた。
現在、トルコのオスマン朝がエジプト州として支配しているにせよ、極めて脆弱である。カプクルという奴隷軍人の主力であるイェニチェリは銃火器により武装していた。
これらが、エジプトのマムルークという同じく奴隷軍人を抑え込んでいる。しかし、マムルークは旧来の弓騎兵であり、カプクルのイェニチェリには及ばない。
マムルーク朝が滅んだ際、オスマン朝へ降ったマムルークは未だに健在であった。オスマン朝の地方官吏として、知事や代官などを務めていたりする。
このマムルークだが、元はといえば大半はテュルク系であり、エジプトにとっては外来だ。2重、3重に部外者の支配を受けているわけで、国土が安定するはずもない。
これまでにもマムルーク、アラブ人部族、オスマン朝の総督(グルジア人)などにより反乱が起きているのだ。また、アフリカの金やイスパニアからもたらされる銀の影響で地中海諸国はインフレが襲っていた。
そこへ脇坂安治が大量の金・銀を持ち込んだことにより、さらに悪化している。ここに来て、安治が膨大な量の穀物、ワイン、家畜、魚、塩などを買い付けた事により食料物価は急騰。
地主や商品は儲かるが下級軍人などは不満を募らせている。給与が目減りするわけで、当然といえよう。安治は幕府よりの指示で、カイロ郊外にてひっそり暮らし、売買はユダヤ商人やアラブ商人を介する事により、恨まれないよう心掛けていた。
また、各地の有力マムルークへ贈答品を贈りつつ、仕事の依頼など行い、友好関係が築かれている。その上、農民にも種や器具、あるいは灌漑資金の提供など、余念がない。
さらに、奴隷を多数買っては労働者(買い取り解放させる)として使役している。主にカフカスやウクライナ方面の者たちだ。待遇は抜群に良いため、皆懸命に働く。男性の場合は密かに軍事訓練も施している。
「筑前よ、この国は不穏じゃな。総督、カプクル、マムルーク、アラブ人など皆して、そそのかせば明日にでもトルコへ反旗を翻しかねぬ」
「逆に申せば、幕府が動くには都合よろしいですな」
「まあ、然様じゃな。何れにしろ、この地は幕府の法が及ばぬ。我らが奴隷を売りさばくわけでもなく、人道に基づき銭を払い、解き放つ。その上で、然るべき賃金は払う。数万人程おれば、エジプトは何とでもなる」
「それでは。何れエジプトを……」
「それはなかろう。我らはこの国の穀物や商いを抑えればそれでよい。ただし、アラブ人が自ら国を建てるなら陰より助力はいたす」
「そういえば五郎左殿、トルコやペルシャよりクルド人を大量に奴隷として買い取る件は如何されましたか」
「先ずは5万人程。ゆくゆく全て買い取る。そして全員シベリア送りじゃな。あやつらは解体を得意としており、荷車に積むのだが、なかなか器用での……。ならば、シベリアの鉱山などへ行けば思う存分運べるであろう」
「ほぉ、誠に結構な事ですな」
「大納言殿、例の者たちが揃っております」
「脇坂殿、誠にご苦労であった」
幕府からの指示により安治は各国へある名前の者たちを探して送ってほしいと依頼していたのだ。
「苦しゅうない。す先ずは国ごとに名乗るが良い」
「先ずはアイルランドを代表しまして、デ●ズニーでぇす」
「同じくマ●ドナルド」
「同じくチキン大好きサンダー●」
「同じくフォ●ド」
「イングランドのゴ●イヴァ(ゴデ●バ)ですわよ」
「フランスのシ●ネルでぇす。ラーナー●エィ、エッエ〜」
「同じくルイ・ヴィ●ンざんす」
「同じくエル●ス」
「イタリアのグ●チ」
「同じくプラ●」
「同じくフェ●ーリ」
「ネーデルラントのハイネ●ン」
「神聖ローマ帝国のグリ●」
「同じくメル●デス」
「同じくベ●ツ」
「同じくポル●ェ」
「デンマークのア●デルセン」
「五郎左殿、この者たちは一体……」
「筑前よ、金のなる木じゃ。こやつらを幕府で囲い込む。そして何か商売させ商標登録してしまう」
「商標登録?」
「然様、著作権と並び大事なものじゃ。著作権には期限がある。されど商標権は延長する事で永遠に保持出来てしまう。儂も米五郎三を登録しておるわい。近い内に国際商標登録所を作ってあやつらの名前を登録してしまうのじゃ、十分な銭は積む」
「誠に金を生み出すのでございましょうか」
「間違い無かろう。特にデ●ズニー、マ●ドナルド、シ●ネル、ルイ・ヴィ●ンは四天王じゃ。これからは各国で商いをせねばなるまい。田中、吉田、佐藤、丸山ではあまりよろしくなかろう。ましてや越後屋なども。屋号は大事じゃ。越後屋よりギ●ラリーラファイエ●ト、プラ●タン、ハ●ッズ、メ●シーズの方が良い」
こうして幕府のブランド戦略は着々と進むのであった。
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