第276話 エンフィールド銃への道

 西暦1594年12月。幸田広之はクリスマスを控えた現代に戻っていた。今回は竹原用に小型デジカメで撮ってきた織田家や幕府の書類、人物や街の風景などの画像。有名人の動画。数々の書物など土産が沢山ある。


 土曜日の昼頃、竹原が犬神霊時のタワマンへやってきた。竹原も広之へ渡すため大量のプリントを抱えてている。有用な人物の資料、欧州の学問や技術に関する資料、欧州各国の貴族や内情、短期間で作れる堅固な要塞、研究者の考えた最強の城、歴史上の様々な法律や条約、金融の歴史……。


 歴史オタクではなく、本物の専門家が本気出しているだけに凄まじい内容だ。さらに知り合いの医学部や法学部の教授も抱き込んで戦国時代へ対応した資料を作ってるという。


 知り合いの作家へブレーンとして協力云々で誤魔化しているそうだ。広之は竹原へ500万円、教授2人に200万円づつ渡した(教授2人分は竹原へ託す)。さらに、自分が失踪中の幸田広之である事も明かす。


「幸田さん、この画像ヤバイですね。信孝や三法師がピースサインとかしてるし。隠し撮りした五徳、茶々、初、江、春日局とかも、こんな写真見た事ないですよ。大阪の街並みも凄いけど寺院は貴重だなぁ。普通の町家や農家とかも……。あと織田家や幕府の文書、売られている活版印刷の書籍。他にも瓦版だの涙が出るような資料ですし」


「期待してますんで。今後もよろしくお願いしますよ」


「幸田氏、前回見せてもらったでござるが、五徳は美人だけど、茶々は今ひとつかも……」


「三姉妹の中で茶々は他の2人に比べると父親似らしいよ。五徳の妹たちも大体美人だし」


「幸田君、五徳は戦国時代だけに少し年食ってるけど、それでも顔が整ってるね。信孝や三法師もイケメンだし、織田家の血筋なんだろうな」


「幸田さん、京都へ行かれた際は是非撮影の方もよろしくお願いします。後でリスト渡しますんで」


「出来る限りやってみます」


「ところで幸田君、前土産に渡した3Dプリンターのエンフィールド銃どうした」


「犬神さん、あれ実際に試作品作ったけどまだまだですね」


「えっ、エンフィールド銃……」


「今、幕府で使ってるのはフリントロック式マスケット(火縄銃は本来マスケットの小型版だが広義の意味でマスケットとする)と紙製薬莢のミニエー弾を使うライフル(ライフルマスケット)を併用しています。ただ欧州戦線へ投入したとあれば数年で真似されるはず。だからこそフランスやトルコにも紙製薬莢のミニエー弾を使うライフルは供与する予定で、ハプスブルク家は多分お終い。その後、経済力が物いう時代となり仏蘭トルコ優勢で膠着状態へ持ち込みます。フリントロック式マスケットは女直、蒙古、ウズベクなどに使わせるつもりですよ。その間、幕府は大砲に力を注ぎ、何れ情勢次第でパーカッションロック式前装のエンフィールド銃や後装式も準備だけしておきます。火薬も黒色火薬に色々細工している最中ですけど。まあ、完成しても量産はまだ厳しいところ……」


「いや、これもう17世紀中に南北戦争くらいまで行くんじゃ……。確実に革命起こしますよ」


「まあ日本は引き返せないところまで行ってるから、このままリードを保ち、狂ったような資金力で圧倒しつつ、産業革命へ持ち込むしかない」


「犬神さんのいう通りです」


「ロシアの事はまだ分からないよね」


「来春くらいまではわからないですよ。最低でもウラル山脈あたりへ国境線は引きます。あとアフリカ経由で幕府の艦隊がフランスへ武器と金届けますから、スペインもいよいよ。自分の予想だとアンリ4世は一方的に引き込まれるのを由とせず、率先してオランダやイングランドをまとめ盟主たらんと欲するでしょうね」


「フランスを傀儡にしたいのだろ」


「ですね。思惑通りです。この時代、イングランドはまだまだ。フェリペ2世を降伏させたら、フランスはカタルーニャとサルデーニャあたり。あとネーデルラントの南部、つまりベルギーも独立。神聖ビザンツ帝国なんて室町幕府末期並に形骸化してるのでドイツ諸侯の多くもオーストリアのハプスブルク家を見限るでしょ」


「しかし、歴史学者の僕が言うのもなんですけど、知ってるというのは神にも等しいですね」


「それはつくづく思いますよ。歴史や地理知ってるだけで、どんだけ有利か。イエズス会の宣教師をゴン詰めしてる時とか真面目に楽しいですよ。あいつら、何故知ってるって素直に驚いてくれるし」


「幸田君、イエズス会的にはもはや悪魔みたいなもんだろ」


 4人による歴史談義は続くのであった。

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