第264話 幸田広之、現代で秋を満喫①

 幸田広之は朝から現代へ戻っている。犬神霊時が出社してる間、色々と調べ物をしつつ午後にはクリニックへ行った。その後、肉山298と合流し、健康ランドで過ごす。そして、夜となり中野のダイニングバーに来た。


 広之の他、肉山298、犬神霊時、鬼墓亜依子が揃い、例の如くシャンパンを注文。そこへ竹原もやってきた。竹原は大学を退職して、現在フリーの歴史研究家となっている。


 以前、鬼墓に指摘された元教え子の件が原因であった。元教え子は生霊となり、竹原へ取り憑き、日増しにエスカレート。ノイローゼ状態となった竹原は鬼墓に泣きついたのだ。


 犬神が間に入り、鬼墓は嫌々生霊を封じ込めた。それ以降、異変は起きなくなったのだが……。そこで話は終わらなかった。元教え子の後輩と付き合っていたが、その子と関係を清算。


 しかし、後日になって、その子の彼氏が慰謝料を請求してきた。公務員夫婦の子として、地方の県庁所在地で育った竹原は本来平凡を絵に描いたような人間だ。この手のトラブルに慣れてるはずもなく、むしろ自分こそ被害者だという意識で一歩も引かなかった。


 それから程なくして、週刊文秋の記者から突撃取材を受ける。相談事にのったり、親しい間柄であったが、やましい事は何も無いと強弁。突撃取材から2週間後、文秋砲が炸裂した。


『テレビで人気の教授、教え子洗脳支配、愛人として弄ぶ』

『元愛人A子さん涙の独占告白、3時間のインタビュー敢行』

『結婚を約束され妊娠、報告すると脅迫され中絶』

『14時間監禁の恐怖、教授の壮絶DV』


 おどろおどろしい見出しが躍り、竹原は事実無根と声明を出した。しかし『戦慄の洗脳凌辱、衝撃の音声公開』『A子さん以外の被害者も多数存在』などと続き、弁護士へ相談したが、焼け石に水となる。


 レギュラー出演していた地上波番組は降板。大学も追われた。まさに天国から地獄。実家の両親からは勘当され、全てを失ってしまう。だが、捨てる神あれば拾う神あり。意外にも手を差し伸べたのは犬神であった。


 何故なら女性オカルトライター小塚原刑子が以前在籍していた店にA子も在籍。小塚原はその時、竹原の事を自慢されていた。しかし、A子は軽い女で、ホストにハマっており、資金捻出のため、ラウンジ嬢をしていたのだ。


 中絶したのは事実にせよ、恐らくはホストの子で、限りなく美人局だろうという推測が導き出された。件のホストは文秋砲でいうところの彼氏と判明。こうして犬神が本格的に乗り出す。


 犬神の祖父大吉は警察や検察はおろか裏社会にも幅広い人脈があった。一部は犬神に引き継がれている。ホストとA子の関係や周辺を徹底調査。結果、犬神からの情報提供により、週刊黒潮が文秋へ真っ向から対抗記事をぶつけたのである。文秋砲と黒潮砲の撃ち合いとなった。


 壮絶な泥仕合は犬神の掴んだ特ネタが決定打となる。ホストとA子がヤク中だという有力情報だ。犬神は警察に情報を提供し、ホストとA子は逮捕され薬物反応も検出。


 A子は釈放後、竹原の件について、ホストより脅かされた、と黒潮で独占告白した。これにより、ホストは恐喝未遂容疑で再逮捕。文秋は往生際悪く生霊を飛ばした女子大生の件で反撃するも、肝心の本人が証言拒否し、黒潮の勝利となり、終結。


 最悪の事態を回避出来た竹原は犬神に感謝したのは、いうまでもない。こうして、再出発した竹原は月刊シャンバラへレギュラー寄稿する事になった他、犬神の協力でYouTuberデビューを果たす。


 全国の古戦場跡、城、旧街道などを探訪したり、歴史解説はマニアに受けて、大学教授時代並の収入となっていた。もはや、犬神の提灯持ちと化している。


「これはペトリュスさん、お久し振りでございます」


「何か色々大変だったようですね」


「いや、もうマスコミの恐ろしさを改めて思い知りました。安岡さんの新聞社が発行する週刊夕日にもあることないこと書かれるし。SNSは炎上するは、ワイドショーでも狂ったように叩かれ参りました。特にミヤケ屋とか訴えたいくらいですよ。しかし、あれだけ騒ぎになったけど、あまりご存知無いようですね」


「その事なんだけど……。そちらのペトちゃん、この世に存在しない人間でさ」


「ええっ、犬神さんマジで。もしかして幽霊なんですか!」


 この後、犬神と広之は真相を語った。この後、広之が過去で隠し撮りしてきた画像を見せる。


「そんな事が本当にあるんですね」


「よくありがちなタイムスリップではなく、時間や空間の概念を超えてる可能性がある。今、俺や鬼墓さんで研究しており、そのうち自由な往来が可能かも知れない」 


「犬神さん、それって僕も戦国時代……いや織田時代に行けるんですか」


「行きたいか?」


「そりゃ、行きたいですよ。何なら、そのまま住みたいし」


「とりあえずは、色々協力してくれ。今、織田幕府は明に租界を沢山作り、清朝らしきものが満州に出来つつある。カンボジアやフィリピンも実質的に支配してるしな。アメリカ大陸ではカリフォルニアのゴールドラッシュが始まり、いよいよ欧州へ丹羽長秀が乗り込むところだ。そこで、歴史学者としての知識を借りたい」


「何か、無茶苦茶ですね。僕に出来そうなのは築城、制度、組織、外交とか、その辺なら出来る限りの事はさせてもらいます」


「お願いします。それと竹原さん。西暦1594年時点で仕官してない武士に使えそうなの居たらピックアップしてください。人材がいくら居ても足りない状態です。あと神聖ローマ帝国やロシアの諸侯に関する詳細なデータも」


「ペトリュスさん、お願いがあるんですけど、次いらっしゃる時、欲しい書籍ありまして……」


「研究に使えそうなの持って来ますよ。各地の城も詳細な図面にしていますし、武鑑とかも。あと有名武家の庶子や女子も含めた詳細なやつとか欲しくありませんか?」


「そんなもんあったら、嬉しくて倒れますよ。是非、お願いします」


 かくして、竹原元教授は闇落ちするのであった。

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