第265話 幸田広之、現代で秋を満喫②

 現代に戻って2日目。土曜日となり、幸田広之、犬神零時、肉山298、鬼墓亜依子の4人は千葉の内房へ向かっている。鬼墓が運転するミニバンで、東京湾アクアラインを抜け、国道16号線に入った。


 鬼墓はハンドルを握ると豹変するタイプで走り屋気質だ。今日は鬼墓の発案により、内房で浜焼きを楽しみつつ、温泉へ入るという趣向である。鬼墓にいわせると東京湾自体が巨大なパワースポットなのだという。


「久し振りに戻ったら竹原教授が文秋砲で失脚してるとは」


「幸田氏、凄かったでござるよ。ネットやワイドショーで叩かれまくって」


「あいつの会った事も無い自称教え子が、わらわら登場してたからな。まあ身から出た錆にせよ、裏事情知っている以上、助けてやったけど。今じゃ何でもいう事聞くから、幸田君もこき使ってくれ」


「正直、助かりますよ。竹原さん、英語出来るし、16世紀以降の調べてもらいたい事山程あるんで。ちゃんと報酬は払いますし」


「小判と茶々のふんどしとかやったら喜ぶぞ。それはともかく、今年中にロシアまで攻め込めそうなんだろ」


「丹羽長秀がオイラトを駆逐しつつ中央アジアへ到達したのはほぼ確実ですね。順調に行けばカスピ海で休憩した後、ロシアへ侵攻します。ただ冬将軍の到来前に引き返しますから、本格化するのは来春以降でしょう」


「ロシアといえばイワン雷帝が亡くなって以降、ガタガタだからな。もう時期、偽ドミトリー騒動始まるし、やるなら今だろ」


「そうなんですよ。長秀にも騒動の経緯や相関図は伝えてありますんで、うじゃうじゃ偽物出て来る、と思います」


「ただ、やり過ぎてポーランドやトルコが力付け過ぎてもアウトだよな」


「ですね。親ポーランド、親スウェーデン、親トルコとかで潰し合いながら、自滅というか衰亡するのが理想ですね。ただ、ウラル山脈一帯とロシア南部の油田、天然ガス田、鉱山、穀倉地帯は抑えます」


「理想の形だね。ところで、30年戦争は無事に起きそうなのかい」


「微妙ですね。イスパニアは衰亡するはずだし、神聖ローマ帝国のプロテスタント派諸侯を焚き付け揺さぶります。カタルーニャへ独立と貿易を餌にして、ハプスブルク家へ弓引かせるつもりですが、30年戦争はどのような形か読めません」


「私が過去に飛べればリーディング出来るのに……」


「しかし、幸田氏、丹羽長秀はその世界線で将来ゲーム化されたら、ステータスやばくないでござるか」


「信孝の野望が出来たとして、武勇:97・知略95・内政98・外政98・統率100くらいだろうね。間違いなく最強キャラでしょ」


「幸田氏はどれくらいでござるか」


「どうなんだろうね。武勇:35・知略97・内政100・外政100・統率70とかじゃないかな」


「完全に軍師系だな。日本版諸葛孔明ってとこかね」


 そうこうするうち、浜焼きで有名な店へ到着した。炭火焼については蛤(外国産)、帆立、サザエ、アオリ烏賊、秋刀魚(焼かれた状態で運ばれてくる)。さらに刺身として、槍烏賊、秋刀魚、鯵のなめろう、鮑を注文。


 鬼墓はノンアルビール、それ以外は生ビールを飲み始める。海を見ながらのビールは最高だ。焼くのは肉山298が奉行と化していた。先ずは蛤の蝶番をキッチンバサミで切り、網の上に隙間なく敷き詰める。


 蛤の汁をこぼさないのが鉄則なれど、数量重視のようだ。肉山298は、いくつか汁を確保すれば十分だと豪語。動かないよう、敷き詰められた蛤が焼かれ、蓋を開ける。次々とキッチンバサミで上蓋が切り取られていく。火加減は決して強くない。


「さあ、そろそろようござんす。お召し上がれ」


「流石、298君。ワイルドに焼いてたけど汁はちゃんと残ってるね。これは、堪らんよ。潮の香りが口に……」


「本当ね。旬や国産がとかいうけど、焼き立ては美味しいわ」


「いや、こりゃ止まらんな」


 次に帆立が焼かれていく。その間、刺身が運ばれてきた。


「いや、本場のなめろうなんて久し振りですよ。この店のは、有りがちなたたきに毛の生えたなんちゃってじゃなく、本物だから美味いなぁ」  


 さらに帆立も焼き上がり、仕上げのバターが投入される。


「どうだい幸田君、こりゃ香りで人殺せるレベルだな」


「いや、全くですね」


 帆立の次は烏賊、最後にサザエが焼かれた。運ばれてきた秋刀魚の他、槍烏賊、秋刀魚、鮑の刺身も食べる。こうして、豪華な昼食が終わり、一同は房総温泉センターへ移動し、海の見える展望風呂を満喫。風呂上がりにフローズンビールを飲む鬼墓以外の3人……。


 秋晴れの内房で浜焼と温泉を楽しんだ4人は帰路に着いた。


 



 

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