第247話 角倉了以と茶屋四郎次郎
角倉了以は京の都へ戻ると、さらなる賑わいに感嘆した。しかし、気になった点が幾つかある。先ず建物が古い。幕府のお達しで新規の建築が認められてないという話を聞き、理解に苦しんだ。
その上、幕府に土地が買い上げられ、空き地が目立つ(特に下京近辺)。さらに、都の郊外では堅固な長屋が無数に作られ、幕府に雇われた大工や人足が沢山住んでいる。治水工事など、行っているというが無駄に多い。
それ以外にも淀川沿いや木津川沿いには堅牢な蔵が立ち並んでいる。高槻あたりでは煉瓦が大量に焼かれているという。また、琵琶湖畔の大津にも蔵が次々と建っている事を聞いた。
他にも家屋には火事用の砂と水が不自然な程、備えられているのも目立つ。消化組織も無駄に思えるくらい整備されている。大量にもたらされる金の使い道が無いのか、とさえ思った。
誰に尋ねても理由は知らない。火事へとの備え以外は馬車の通る道を作る可能性が高いと、了以は感じた。しかし、これらは史実通りならば2年後に起きる慶長伏見地震への備えである事など知る由もない。
さて、番頭を集め日夜業務に励む了以だったが、ある日盟友ともいえる茶屋四郎次郎の訪問で、久々の再会を果たす。
「了以殿、もう少し休まれても宜しかろう」
「いやいや、世の中は常に動いてございます」
「お陰様で銭のまわりが宜しいですからな。船が沢山作られ、蔵も次々と建っております。これからの時期、明国へ向けた品物を積んだ船が出ます故、実に忙しい限り。ところで、あちらはどうでしたかな」
「清州は平安の世、沿海州は大和に都があった頃くらいでございます」
「それだけ伸び代があるという事ですな」
「然様。先ず人が足りませぬ。明と日本から人を送り込み、道を作り、治水を行い、田畑が切り拓かれてゆけば弾みはつくはず。恐らくは遼東や清州の大きな町や鉱山を結ぶ煉瓦敷の街道を作るのでしょう。幕府はかなり先を見越しておりますからな」
「話には聞いております。この先、上海を大坂以上の町にするとか。天津、瀋陽、大連、栄明、栄河、栄寧、長春、香港、厦門、潮州、台北、高雄、バンコク、プレイノコール、プノンペン、昭南、クアラルンプールなどは何れも大坂に劣らない町を目指すようです」
「今の幕府ならそうなりましょう。我らも本腰を入れて番頭を育てねばなりませぬ」
「それと丹羽様たちは蒙古征伐にご執心のようですな」
「先ずは明国を安定させるため。次に遥か西方の国々と蒙古の貿易を止めたいようですな。さらに、蒙古を西方へ追い払い、ペルシャやトルコを脅かさせる狙いも……。丹羽様たちはロシアという大きな国の辺境も攻めるとの事」
「ロシアとやらは初耳ですな」
「欧州の外れにある国で、かつて蒙古が治めてたと聞いております。放っておけば必ずや東方へ進んで来るので、今のうちに弱めたいとか……」
「幕府はトルコという国と仲宜しいようですな。それにしても遥か遠くの国々まで、先読みし、手を打つとは……」
「新亜で金が信じられぬ程、出ているという噂が本当ならば、その先の欧州より守らねばなりますまい。そうなると、トルコと組み東から欧州の国々を牽制するというのは利に叶っております」
「まさに神算鬼謀。そこで、了以殿相談ですが、丹波屋さんも新亜に行っております。今度は私が海の向こうへ行く番ですな」
「一体、何処へ行かれるおつもりでしょうか」
「老い先短い身となれば上海へ行ってみようと思いましてな。倅の清忠をお頼みいたします」
「承知いたしました。海の向こうといえば丹波屋さんの次男も上様の弟君(信勝)とインドへ向かわれたそうで……」
「インドからエジプトのカイロへ行くといっておりましたな」
「ほぉ、羨ましいですな」
この後、了以は遼東、清州、沿海州の図面(地図)を茶屋四郎次郎へ見せながら、手に入る産物や足りない物など説明するのであった。
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