第236話 幸田広之と犬神霊時
現代に戻っている幸田広之は昨晩、歴史学者の竹原を翻弄し、満足していた。高級なシャンパン、ワイン、ウイスキーは持ち込みであり、店へ一定の料金を支払っている。それでも勘定と酒の購入代合わせると100万円を軽く超えた。
竹原へ渡した三法師の書状は炭素14年代測定を行ったとして、濃度は殆ど減っていない。つまり、偽造ということになる。しかし、現代と戦国時代では濃度が違う。1964年以降、核実験により大量の炭素14が放出された。それ以降の偽造なら直ぐに露呈する。
戦前という判定になるであろう。でも、筆跡、紙の成分、墨汁など精密な検査・鑑定をすれば炭素14による測定とは異なる結果が出る。全く未知の技術と専門家以上の高度な知識によって偽造されたものか迷うはず。
竹原は多大な費用と時間を浪費しても判別出来ずにオーパーツ扱いとなるかも知れない。過去から持ち込んだ景徳鎮は犬神の人脈によって、大富豪が闇で購入したという。測定などはしてない。磁器の鑑定人が複数で間違いなく本物だと断定しており、相手は表に出せない金で買い取ったそうだ。
やはり、世の中想像を絶した大富豪も居る。自分だけの闇コレクションを所持している者も多い。その手の世界では行方不明となっている国宝級の骨董・美術品も多いという。
骨董品は税法上の固定資産に含まれない。しかし、一定金額以上の譲渡や相続に税は発生する。ちなみに、相続税の時効は申告期限から5年だ。時効成立で相続税を徴収する権利が無くなる。
ただ、故意に払っていなかった場合や対象財産を隠していた場合などは時効成立の期間が7年に延長される。つまり、最大7年以上経過して、蔵を整理中に偶然発見したのであれば、相続税は払わなくて済む。無論、売った場合は別の話になる。
さて、広之と犬神は少し遅く起きると朝マックを出前で注文。朝食を取りながら昨夜の話となった。
「しかし、昨日は傑作だったな。何ヶ月掛かるかわからんけど、三法師君が書いた手紙とか、炭素14の測定したら間違いなく新しいわけだ。普通なら偽造だけど、紙や墨、筆跡、文章内容とかガチ。混乱するだろうよ」
「間違いないでしょ。あいつ、真剣だったし」
「左衛門と影の幕府なんて題名の本出してもいいかな。家康、秀吉、長秀、近衛前久、正親町上皇、五徳、茶々、春日局たちを動かした謎の人物……」
「何か面白そうですね」
「ところで脇坂安治は何してるんだい」
「カイロでクリミア・ハン国から奴隷の金髪美女とか買って解放させ女中にしたり、ロシア辺境を探索するとか、アフリカにも艦隊派遣するなど大活躍ですね」
「黒海周辺は面白いな」
「そうなんですよ。サファヴィー朝もオスマン朝程じゃないにしろ、かなりヤバイので……。オスマン朝には欧州やロシアを圧迫して貰いたいですけど、安全弁の役割果たすのがサファヴィー朝。さらに、サファヴィー朝とムガル朝は友好的なのが、また厄介。サファヴィー朝はオスマン朝攻めるしかなく、いい感じで消耗すれば中継貿易含め一石二鳥ですね」
「色々、考えてるなぁ。で、フィリピンやマラッカ攻めるの今年なんだろ」
「ええ、マニラやセブ島へ既に工作員潜伏させているし準備万端ですよ。日本の人口も1593年の調査では約5%の増加だから、予想超えてます」
「何か問題はないのかい」
「馬と牛ですね。馬はアラブ種やアンダルシア種の牡馬に日本在来馬の牝馬を交配させて増やしてるんですけど、ただ数が足りなさすぎる……。品種改良するため、日本在来種の牝馬ならどれでもいいわけじゃなく大きいのを選び、その子供も大きいので繰り返しですよ」
「そりや、どうしても時間掛かるな」
「そうはいってもアラブ種入れる前から牡馬と牝馬は大きいの集め交配はしていたから、結構うまく行ってますよ。他にもインド映画のバーフバリてお馴染みのマルワリ種も昨年日本へ来たんで、これも掛け合わせてるし。大きさ、速度、スタミナ、頑強さ、従順さを兼ね備えた新品種作りたいですね」
「カリフォルニアには馬何頭くらい居るの?」
「今年生まれるの含めて千頭程だと思いますよ」
「それなら10年後には数万頭……。いや、もっとだな。プレリー地帯で野生化したムスタング捕まえて交配すれば上積みだ。ムスタングは出来ればネイティブ・アメリカンたちに渡らせたくないしな」
「あと、今年はメキシコにも侵攻するんで、それらも分捕れば、さらに行けるはず……。人口の方も17世紀半ばに、アメリカ大陸の日本人は約1千万人が目標ですね」
「おいおい、それって同時代の西欧大国ふたつ分くらいあるぞ」
「早い段階でジブラルタル、カナリア諸島、マディラ島、アイルランドあたり抑えて、欧州勢が外へ出れないようしたいですね。それと、モロッコのサアド朝を支援してイベリア半島攻め込みたいところ」
「流石。未来人やる事がエグイな」
「やあ、それ程でも……」
「いや褒めてないって。それと、三法師君にカミングアウトしちゃったんだろ。今回はオッサンたち向けの酒だけじゃなく子供受けするような土産も必要だな」
「おお、忘れてた。お子ちゃま向けの菓子類沢山必要ですね」
「だろう」
こうして2人は浅草へ土産の買い出しに向かうのであった。
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