第244話 ペルシャ湾の制海権
カイロを拠点にしている脇坂安治は昨年から、アフリカ東部沿岸のキルワ(現ケニア)、モンバサ(現ケニア)、モザンビーク島(現モザンビーク)、ソファラ(現モザンビーク)などの周辺地域を偵察し、協力勢力や寄港地の確保に取り組んできた。
ポルトガル領東アフリカの首都はモザンビーク島にある。東アフリカの場合、アラブ系の勢力圏という事もあり、守るに適した島が拠点となりやすい。ポルトガルはアフリカ東岸やインド西岸に拠点を築きつつ、紅海とペルシャ湾を封鎖。
これによって、ポルトガルはインド洋からアラブ商人を駆逐し、マラッカ以東と接続した大貿易圏が成立。インド洋におけるポルトガルの覇権を壊滅させるため織田幕府は動き出した。脇坂安治にはジョホール王国人やオスマン朝領内のアラブ系などムスリムの協力者が沢山従っている。
安治は調べた情報を幕府の租借地であるヴィジャヤナガル王国のチェンナイ(マドラス)へ送ったのが昨年の9月頃であった。そこに居た織田信勝(織田信長六男。史実では信長の父と同じく信秀。通称:三吉郎)が艦隊を率いてジブチへ向かったのは昨年12月の事だ。
余談だが信勝の烏帽子親は池田恒興であり、本来は信興となるべきところ、信長の兄弟と被るため、恒興の別名勝三郎から取っている。なお、信長の弟信行も初めは信勝(当時の資料で信行は確認出来ない)だが、その後改名してるので問題とならなかった。
織田信孝の弟では年長格のため、十分な教育がなされ、温厚かつ思慮深い人物だ。数えで23歳と若いが、織田家中における声望は高い。織田家直臣の次男や三男なども多く、次世代の精鋭軍団と目されている。軍功を立てれば分家となり、信勝や信孝の直臣に取り立てられる可能性もあるため、指揮は極めて高い。
幕府の海外派兵において将軍の弟は初の事だ。信勝には池田家の分家となった池田輝政も随行していた。信勝の艦隊は無事にジブチへ到着するや、南下してキルワを皮切りに次々とポルトガルの拠点を制圧。
一方、安治の艦隊はペルシャ湾の入り口付近にあるポルトガルの拠点マスカット(現オマーン)制圧し、いよいよホルムズ島へ迫った。ホルムズ島はペルシャの沖合60kmに位置し、東京の江東区とほぼ同じ大きさだ。
元々、ホルムズ王国という通商国家が存在していたが、ポルトガルの攻撃を受けて朝貢国となったのは西暦1507年の事。 しかし、ポルトガルはそれだけでは飽き足らず、西暦1515年に再度ホルムズを占領。要塞を建設し、アラビア海への出入り口を塞いでしまった。
「殿、懐かしいですな」
「以前、捕まったからのぉ。此度は捕虜としてペルシャへ引き渡してくれよう」
「間違いなく酷い目に逢いますな」
「言葉では言い尽くせ無いような事されるじゃろう」
「殿、ポルトガルの船が出て来ましたぞ」
「よし、このまま隊列を崩すでない」
1時間後、ポルトガル艦隊はおよそ1km程まで接近すると一斉に砲撃を開始してきたが、その距離なら当たる可能性は低い。先頭付近の幕府艦船は小型で旋回性と速度の面において優れており、囮役をこなしている。17世紀にオランダで開発されたガレオン型のピンネースに似ていた(というかモデルにしている)。
後方の大型艦は、その隙に向きを変えつつ一斉に長距離射程の大砲を放つ。ポルトガル艦隊が混乱していると、先頭付近の小型艦はさらに接近。そして、100m程の距離となり、ついにカロネード砲が火を吹く。射程距離は短いが、破壊力は凄まじい。
「殿、敵艦2隻が被弾し、内1隻は恐らく浸水しておりますな」
「大砲を積まぬ白兵戦用の船も出てきたのぉ」
「殿、もう1隻被弾し、船尾が吹き飛んでおりますぞ」
「さらに、敵船団へ近付いて構わぬ」
その後、ポルトガル艦隊は2隻沈没、3隻航行不能、1隻離脱。ホルムズ王国の白兵戦用艦船も3隻が逃亡した以外は全滅となり。ホルムズ島沖海戦は幕府艦隊の圧勝であった。幕府艦船は無傷である。
ホルムズ島へ近づくと、激しい砲撃を受けたが、大型艦の援護射撃の下、兵を満載した舟が次々と上陸。待ち構えた敵兵と応戦している間、カロネード砲も運び込まれ、敵陣へ撃ち込まれるや、ポルトガル側は潰走。
城塞も難なく陥落させた。降伏を受け入れ全員捕虜とする。安治たちの一向には、ペルシャ語を話せるトルコ人も居るため、遥か東方の者だがイスラム教へ寛容であり、キリスト教徒では無いと説明。そのため解放者としてホルムズ王国の者たちから歓迎された。
安治はホルムズ王にポルトガルから集められた島民からなる兵が犠牲となった事を詫びたのである。そして、犠牲者の家族へ見舞金を渡す事を申し出た。さらに、湊の利用や貿易について協定を結ぶ。捕虜たちは島の主権者であるホルムズ国へ引き渡され、全員無惨な仕打ちにより処刑となった。
続いてバーレンも制圧。ある日、ホルムズ王の使者がサファヴィー朝の王都イスファハーンへ報告に向かうというので安治も同行。こうして安治はイスファハーンへ赴き条約を結ぶ事に成功した。
こうして、日本はオスマン朝、サファヴィー朝、ムガル朝という大国と条約を結び、新たなる段階へ進んだ。
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