第215話 黄金の国日本
西暦1593年6月上旬。大坂の織田幕府は空前絶後の事態に騒然となっていた。新亜(北米)の龍門(サンフランシスコ)から到着した幕府御用船が夥しい量の金を満載していたからに他ない。
その量たるや幕府首脳の想像を絶する規模だ。何しろ日本全体で1年間に取れる金の200倍以上はある。もはや無尽蔵の財源を確保したに等しく船舶、銃、大砲などの費用や海外進出は問題ない。
無論、幸田広之や織田信孝などは予定通りであり、差し当たっての使い道は予め考えてある。ストーブ普及に向けた助成金、農村支援、寺子屋支援、各地への図書館建築など、淡々と予算を組んだ。
今年度は豪州(オーストラリア)へも2万人送り込む予定である。東和州(カリフォルニア)、荒須賀(アラスカ)、豪州での金採掘はいよいよ量産への体制が整う。後は太平洋沿岸地域からイスパニアを駆逐するだけだ。
今年の東和州へ向う船団には多数の大砲と兵員を乗せる。来年にはメキシコシティとパナマを抑える予定であり、着々と事は進んで行く。イスパニアは慢性的な財政危機に陥っているため、余裕はない。
現状としてイスパニアはこれまでネーデルラント(主にオランダやベルギー)の独立戦争、英国との戦争、フランスとのイタリア戦争、オスマン朝との戦争など、多方面で戦い疲弊している。その上、ポトシ銀山の産出量も既に下降線。
また、国王フェリペ2世は63歳と老境であり、史実通りなら今から5年後に亡くなる。そこへ、フィリピン(呂宋)のガレオン貿易とポトシ銀山を失えば致命傷であろう。
さらに幕府がトルコやフランスと結び地中海でも攻勢を掛ければ、イスパニアの栄光は消え去る他ない。広之の予測では激怒したフェリペ2世は見境なく艦隊をヌエバ・エスパーニャへ送り込むと想定している。
そうなれば英国、フランス、北ネーデルラントが黙って見てるはずもない。イスパニアがヌエバ・エスパーニャの防衛や奪還に失敗すれば獄門台へ上がったようなものだ。
現在、インドで入手済のケシをシャムで栽培している。何れは阿片を作り、欧州へバラ撒く。欧州は徹底的に衰退させ、発展を遠ざける方針だ。そして宗教対立で殺し合い自滅してくれるのが望ましい。
大坂城開かずの間では信孝と広之が話していた。
「左衛門よ、予め知っておったゆえ、さして驚きもせぬが、それでも恐るべき量の黄金じゃな」
「これより、毎年大量の黄金が届きます。それを端から使えば物の値や労賃は上がるのは必定。日本だけでなく、国外含めて調整せねばなりませぬ。これが大変難しい。あまり関係ないところ、例えばフランスなどから大量の船、銃、大砲を買い入れます。何れ東和へ欧州勢が押し寄せるやも知れませぬゆえ、防備は固めましょう。また、国外へ送る品物は出来る限りシャム、台湾、遼東、明の租界などで調達し、金を落とします」
「そなたがいうところの匙加減じゃな。国外へ送り込む民も各班5人、各組50人(10班)、各団500人(10組)に分け、組まして働かせ、必要とあらば、そのまま戦わせるなど、なかなか思いつかぬ。平素より各頭へ従い共に働いておるから、足軽としても不足はない。各頭は元々、武士や足軽であるしのう」
「指揮の系統や上下さえあれば、組織として動けます。下知された事に従う、決められた事を守る、任じられた約目を果たす……。かような事が集団で機能すれば最低限は何とかなりましょう」
「今後は大名でなく織田家の家臣と有事の時だけ戦う民兵が主体となり、やがて大名は地位を失うのであったな……」
「然様。領地の治安を維持出来るだけの力さえあればそれでよく、外敵から守るべき国軍さえあれば、武家は必要ございませぬ」
「そのため、先ずは民を豊かにし、学ばせねばなるまい」
日本の文字通りとなる黄金時代が始まろうとしていた。
※幕府は近代化して作られた言葉を多数導入しています。
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