第208話 幸田広之、2度目の現代へ③

 さて、3日目の今日は実質最終日といえる。明日は朝に過去へ帰ってしまう。信孝への土産なども買わなければならない。早めに起きた幸田広之は朝マックをデリバリーで注文し、マックグリドルとナゲットを堪能。


 食後に、昨晩買ってきたアイスクリームを食べる。そして、やおらネットで昨晩のクソ学者を検索。普通に某SNSアカウントを待ってるが、素人の歴史オタクに絡まれたとか書いていた。次回、来る時は戦国武将直筆の書状でも持ってきたいところだ。


 しかし、あのクソ学者がいってた犬神霊時の女性関係は少し気になる。昔から、派手ではあった。霊感体質の美人女子大生、陰謀論者の美人ライター、ネトウヨの美人インフルエンサー、歴史好きの声優など、もろに犬神の好みだ。これまで、犬神が普通の女性に手を出したのを見た事ない。


 それは、置いておき、帰るまで調べごとでしておかねばならない事はまだまだある。クソ学者の事を調べて、遊んでる場合でない。こうして14時頃になり、広之と犬神はタワマンを出て御徒町まで出掛けた。

 

 松坂屋に行き、ベタではあるが十四代と獺祭を購入。さらに、苺、キウイ、さくらんぼ、びわ。チョコレート、エッグタルト、ポテトチップス、クッキー、バウムクーヘン、チキンラーメン、スティックコーヒーなどを買い、御徒町駅へ移動。


 一方、その頃家が同じ方面である鬼墓亜依子と肉山298は吉池で買い物をしていた。すき焼き用の材料、刺し身、寿司、鮟肝、つぶわさび、サーモンクリームチーズ、烏賊塩辛、松前漬け、ソフト烏賊、鱈珍味、チーズ鱈、揚げ銀杏、焼きエイヒレ、ミックスナッツ、柿の種、ソフト帆立、海苔天、烏賊天など、晩御飯と信孝への土産物を購入。


 こうして2チームが合流し、ワゴンタクシーで犬神ハウスへ向かった。霊能者になる前は母親の小料理屋を手伝っていた鬼墓が手早く準備する。鬼墓は子供時代から能力に半分程目覚めていたが、本格的したのは小料理屋時代だ。


 この客に悪い事が起きるとか、死者の念が渦巻いてるだの鮮明な感知を開花。常連客の間では鬼墓のいう事が恐ろしいくらい当たると話題になる。そして、ある常連から話を聞いて、犬神の祖父である大吉が訪ねてきた。


 バブル崩壊後、瀕死の状態だった犬神は逮捕と破産の危機を迎えており、藁にもすがるような気持ちで霊視してもらう。霊視の結果、前妻に呪われているというもので、浄霊を行った。


 そして、鬼墓のいう事を全て実行した大吉は奇跡的に持ち直し、破産と逮捕から脱する。大吉は宗教法人を買い取って鬼墓に与えた。政財界や芸能人の知人を紹介し、鬼墓は知る人ぞ知る存在となる。


 週刊誌で謎の霊能者として騒がれ始めると、あからさまに利用すべく悪意の権化みたいな人物も群がってきた。そこで犬神や広之がテレビ局へ鬼墓を売り込んだ。その一方で実はインチキだと噂を流し、カムフラージュした。


 その後、鬼墓は檀家方式と料亭の一見さんお断り方式を取り入れ、基本的には大吉から紹介された人脈以外は受け付けない。現在でも最大のパトロンは犬神の父親と祖母だったりする。犬神がオカルト方面に興味を抱いたのは鬼墓の存在あればこそだ。


「さあ、準備出来たわよ」


 テーブルにはタレの入ったホットプレート、寿司、刺し身、酒が並ぶ。


「さてさて、肉奉行である拙者の出番でござる」


 深めのホットプレートには多めのタレしか入ってない。


「久々だね。298式すき焼き」


「幸田氏とすき焼き食べるの10年以上振りでござる。忘れてはおりませぬな。ロングサイズの極上霜降り黒毛和牛が半分程にカットされてるので、これをしゃぶしゃぶ方式ですぞ」


 肉山は沸騰寸前から温度を少し下げ、肉を10枚程入れた。


「さあ、よろしいざんす」  


 みんな、一斉に取り出して卵へダイブさせた後、食べる。


「いつも通り、美味いね。どうだい幸田君、久々の298式は?」


「いや、食いたかったんですよ。やはり美味いな」


「さあ、また追加ざんす。どんどん行きましょう」


 肉をある程度食べた後、豆腐、椎茸、長葱、えのき、春菊、トックなどを入れる。温度は少し上げた。野菜の後はまた肉……と交互に食べるのが298式だ。


「肉山君から聞いたけど、貴方たち竹原さんに絡まれたの?」


「えっ、鬼墓さん知ってるんですか……」


「何年か前、歴史ミステリー番組で色々いじわるされたのよ」 


「あいつ、人を斬った刀と普通の刀とかすり替えたり、手の込んだ事しやがってさ。でも、全部当てられ動揺してたよ。まあ、SNSでは確率的に問題ない範囲だとか抜かしてたけど」


「犬神さん、マジっすか……。嫌なやつですね」


「感じ悪いでござる。幸田氏、今度来る時は火縄銃と村正よろしくなり」


「おお、いいな。令和の時代に火縄銃で撃たれた後、本物の村正で斬られたら、あいつも歴史学者として本望だろ」


 この日、鬼墓と肉山は浅草のホテルへ泊まる事になった。その前に、肉山は持参した寒冷地に強いコシヒカリとユメコガネ(極早生品種)、各種じゃが芋の種芋(男爵、メークイン、インカのめざめ)、寒冷地向けの小麦と大麦、レンズ豆やひよこ豆の種などを渡される。


 さらに新聞や雑誌、歴史関係の本などもあり、これらは広之が今回来る前、持ち込んでいたものだ。そして翌日、鬼墓と肉山が訪れ、広之は過去へ戻ったのである。その時にも、コンビ二で買ってきたシュークリームやパンなども持たされた。


 広之は中庭にあるお堂のような建物内で目が覚め、今回も無事に戻ってこれ、胸を撫で下ろしたのである。

 








 


 

 


 

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