第207話 幸田広之、2度目の現代へ②
昨夜、大久保で朝まで飲んだあと犬神ハウスへ戻った幸田広之と犬神零時は昼過ぎに目覚めた。スタバのアイスコーヒーをデリバリーで注文し、広之はネット検索する。16世紀から17世紀についての各国事情を確認してはプリントアウト。
特にインド、オスマン朝、サファヴィー朝、地中海、ロシア、フランス、英国、オランダ、神聖ローマ帝国は、これから重要だ。Googleマップで明国租借地、遼東や清州の主要都市、台北、高雄、バンコク、プノンペン、ホーチミン、マニラ、クアラルンプール、ジャカルタ、シドニー、サンフランシスコ(龍門)などの拡大図を出す。
夕方から広之と犬神は中野へ行き肉山298と合流。そして犬神行きつけのダイニングバーへ入った。この店のオーナーは最近売れている歴史時代小説作家らしく、その作品のファンや歴史関係者(大学教授、歴史研究家、マスコミ)とか多いらしい。
犬神曰く広之の知り合いは居ないから大丈夫との事だがいつもより入念に変装している。昼から営業しており、客はそこそこ入っていた。帆船時代の港にある酒場をイメージしているそうで、それなりの雰囲気がある。
犬神は買って知ったる感じで、ワインと様々な料理を注文。しばらくして料理が並ぶ。ガリシア風のタコ、小イワシの酢漬け、三陸産ムール貝のワイン蒸し、ステーキのアヒージョ、アルボンディガス(スペインの団子。これは白身魚を使用)、オリーブの塩漬け、ポルトガル風サラダ、ズッキーニのグリル……。
「どうだい幸田君……。昨日はヘビーだったからさ、今日は地中海風でさっぱりしていいだろ」
「ステーキのアヒージョはわけわかんないですけど、タコ、イワシ、団子とかいいですね。これなら、あっちでも作れるけど、ワインがどうにもならないのが残念」
そこへ、50代半ばくらいの男性2人組が隣のテーブルへやってきた。どうも、犬神とは面識があるらしい。
「これは犬神さん……。今日は霊感体質の美人女子大生、陰謀論者の美人ライター、ネトウヨの美人インフルエンサー、歴史好きの声優などとご一緒でなく男同士とは珍しいですね。しかし、流石は大物の孫ともなると女性にモテて羨ましい限り」
「嫌だな、安岡さん。大手新聞社の記者には敵いません。毎年、大学の後輩によるOB訪問で、いい思いしてるって噂ですよ。こちらこそ羨ましいな。女子大生っていえば竹原教授なんてルックスもいいし、テレビに出まくってるから、週末は関東各地の城趾へフィールドワークと称して教え子同伴でデート……なんて噂もありすね。僕は根も葉もない噂だと信じてますけど」
いきなり、出会い頭に挨拶がてらのバトルが繰り広げられる。教授らしい竹原という性格悪そうな男が口を開く。
「そちらの、おふたりさんもオカルト関係の業界人なんですか」
「竹原教授、こちらの方は戦国時代についてはおたくより詳しいですよ。ただの素人ではありますけどね」
「ほう、そりゃ凄い。歴史学者である竹原先生より詳しいなんて。ああ怖い、怖い。こりゃ参った」
「ネットで犬ゴミなんていわれてるだけあって冗談キツイですね。流石は陰謀オカルト雑誌の編集者だけの事はあるな」
広之と肉山298は笑いを堪えつつ、タコやムール貝を食べている。
「歴史好きのお友達は武将の書状とか読めるんですかね」
「安岡さん、試しに見てもらったほうが早いでしょ」
犬神は誘い水を掛ける。
竹原はそちらがそう出るなら、という感じでバッグからPadを出す。何やら操作して、とてもではないが一般人には読めないような書状の画像を見せる。それを見た広之は事もなげに読み始めた。竹原と安岡の顔が急変。
「ようは、細川忠興が秀次事件に巻き込まれた時のもので秀吉への忠誠を誓う内容なんだけど、彼の性格が滲み出ている。筆跡も同じですね」
「これは、先日発見されたばかりのものでまだ一般には未公開のものでしてね。少し意地悪して署名は伏せましたが、迷わず読み上げたり、瞬時に内容の行間まで読み解くとは、なかなか……」
その後、竹原は徳川家康、島津義久、伊達政宗、蒲生氏郷などの書状を見せるが、日頃から見慣れているため、瞬時に当てる。こうなると竹原もただの歴史マニアでなく本当は同業者ではないか、警戒しだす。名前を聞いても名乗らないので、なおさら怪しい。
その後、広之は竹原と戦国知識バトルを繰り広げ圧倒しまくった。桶狭間、姉川、金ヶ崎の退き口、手取川、明智光秀謀反の真相、三方ヶ原、川中島などの実際を関係者たちから確認している。
転移当時の鉄砲運用と性能、合戦や攻城戦、行軍、長期遠征時の宿泊や食事、医療事情、肉食事情、物価、農村、商人、宣教師、公家、僧侶などあらゆる事を自身の目で見てる。
竹原も馬鹿ではないため「根拠は?」などと迂闊に聞いてこない。専門の学者からしても、明らかに可能性の高い事をいってる。
「犬神さん、もう猿芝居よしてくださいよ。この人、どう考えても在野の郷土史家や歴史オタクとかでなく、僕と同業なのは間違いない。名乗りたくないというのは何か事情あるんでしょうけど」
そういうと竹原と安岡は店の端へ移動した。2人の姿を見ながら犬神は上機嫌で、肉山も笑っている。犬神は広之へのご褒美として、クリュッグのグランド・キュヴェを注文。この店では1本12万円程する高級シャンパンだ。
2人連れの女性客にも声を掛け乾杯する。チラリと見てきた竹原と安岡へ、犬神はシャンパングラスを傾けドヤ顔フラッシュで応じた。テレビで売れっ子の学者や新聞記者でもダイニングバーで12万円するシャンパン飲む程の甲斐性はない。
勢いにのった犬神は、気仙沼産の生春牡蠣を注文し、モテモテだ。こうして、2日目の夜も過ぎていった。
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