第190話 幸田広之、現代に戻る③
新宿で24時近くまで飲んだ翌日……。犬神霊時は起きて出勤のためタワマンを後にした。残された広之はネスカフェ・ゴールドブレンドを飲みつつ、ぼんやりテレビを見る。
広之はテレビを見つつ、自身の現象について考えていた。現代に影響が無いという事実は別の時間軸なのだろう。ならば、今いるこの軸も無数に枝分かれした支流であるのかも知れない。
その視点で未来より過去へ介入があった、という前提に立てば、怪しい人物は多々居る。だとしても自身のように迷い込んだ場合、直接的な形で歴史を変えるのは容易ではない。
自身が死んでもいいなら比較的簡単なのは歴史上、重要な人物を殺す事だ。そうでなければ、自身がそうであったように権力者へ取り入るとかであろう。しかし、それとて簡単ではなく、厳しい。
とりあえず、これが無ければ、そうならなかった場合を考えてみる。日本に絞れば織田信長の桶狭間、明智光秀の本能寺、羽柴秀吉の大返し、石田三成の関ヶ原、薩長同盟、東郷平八郎のバルチック艦隊撃滅などは、本来違う結果であり、介入によって改変された可能性もあるだろう。
自分が改変した時間軸も幾度となく改変されて分岐を繰り返されたのかも知れない。本来、信長は尾張の同族争いで消え果てたり、関ヶ原も起きなかった可能性もある。
ならば自分が作り出した時間軸の未来から新たな改変者が流れ着く可能性も当然考えられよう。ただ、時間軸と無関係な可能性もある。無意識のうちにゼロ・ポイント・フィールドから過去の時代を複製し、一種の仮想空間が生成され、そこへ吸収という事なのか?
昨日、鬼墓亜衣子から聞いた話だと、引き寄せるまで長い年月を要したが、今後は普通に出来るかもしれないという。明日、鬼墓が念を封入した呪物を渡すといっていた。
一種のGPS発信機みたいな役割を果たすらしい。それどころか、広之を媒介して鬼墓たちも一緒に移動出来る可能性があるという。犬神理論や鬼墓の話からすれば時間を超えて移動していないような気もしてきた。
そうなると、自分が死んだ瞬間にあの世界は消えて無になることもあり得る。いや、死んだあと輪廻転生し、ゼロ・ポイント・フィールドから前世の仮想空間を再生の上、もう一度飛んでもおかしくない。
しかし、その理屈も突き詰めると様々な矛盾がある。まあ、いくら考えても正しい答えは出ないだろう。全ては想像と推測の領域だ。
もろもろ考えつつ、発注した種が到着するまで犬神ハウスにて過去へ持ち帰る資料をコピーしまくる。そして昼となり、デリバリーで食べ物を注文した。メインはCoCo壱だ。パリパリチキンカレー400gの2辛。トッピングとして、豚しゃぶ、ソーセージ、ほうれん草、チーズを追加。
他にビアパパ、サーティワン、スタバも注文。その後、続々と配達が届く。久々のCoCo壱に感動したのはいうまでもない。食後スタバの珈琲でビアパパを頂く。過去では味わえない愉悦だ。背徳感さえある。
夕方前に肉山298が遊びに来た。食の専門家なだけに料理のレシピ本やグルメ雑誌のバックナンバーを多数持参している。また昨晩、広之から手に入る食材を聞き、作れそうなレシピを考案し、コピーの束となっていた。これは過去へ戻った時、役にたちそうだ。
肉山の実家も犬神程ではないが相当太い。実家は貿易会社をやっている。知らない間に、妹も肉食専門のライターやタレントとして活躍しており、肉山294(ニクヤマニクヨ)を名乗っているらしい。
コンビニでは294プロデュースの商品も並ぶという。以前は298プロデュースのコラボ商品が飲食チェーンや食品会社より出されたものだ。現在では294に取って代わられている。
肉山とくだらない話をしていると犬神から電話が入り、高円寺で待ち合わせる事となった。広之が消えた後に開店したモツ焼き屋があり、なかなかのものだという。犬神と肉山が行きつけの店らしい。
1時間後、高円寺に着き、喫茶店で時間を潰す。そして肉山も合流し、モツ焼き店へ開店と同時に入った。先ずはモツ煮込み、豚バラ軟骨煮、豚足煮、ポテサラ、ぬか漬け盛り合わせを注文。
酒は珈琲豆が漬け込まれた焼酎を豆乳で割っている。脂ギッシュな煮物によく合う。モツ煮込みは蒟蒻、大根、人参、豆腐、卵とか余分な物が一切入ってない。モツだけというストロングな内容だ。
温度低めでじっくり仕上げており、噛み応えを残しつつ柔らかい。味付けは醤油味でシンプルかつ美味い。隠し味で業務用の燻製風味液が少し入っている。
豚バラ軟骨煮は圧力鍋で煮ており、軟骨も柔らかく、これは塩味だ。豚足煮は骨を抜いた業務用がコチュジャン味で煮込まれている。ポテサラも枝豆、卵、手作りコンビーフが入っており只者じゃない。流石は肉山もよく来るというだけのことはある。
しばらくしてモツの串焼きが次々と焼き上がった。レバー、シロ、コブクロ、ガツ、ハツ、アブラ、カシラなどが並ぶ。過去の時代では流石の広之も豚モツはほぼ調理しない。
臭いがキツイからだ。屋敷で使う豚は郊外で解体している。モツはそこで煮て食べられていた。これだけモツのフルコースは久し振りだ。感動しながら噛みしめる。
酒は途中からホッピーに切り替えたが、これも久し振りだ。広之が真剣な眼差しでアブラやレバーを見つめるたび、犬神や肉山は「兄貴、お勤めご苦労さまでした!」などとからかう。
「ところで幸田君、向こうで殺ったことはあるの?」
「無いですよ。刀とか一応持ってるけど使わないし。ただ、合戦があるたび、首実検あって、ちょっとヤバイかも」
「幸田氏、それ絶対放送禁止のやつでしょ……」
「最初は食欲失せるし、夢でうなされたよ。組み伏せて暴れる相手の喉元斬ったりするから、凄い表情だし……。強面のやつが苦しい顔してるとポイント高いね。首を獲った者が経緯を饒舌に説明するけど漫画やアニメのサイコパス系キャラみたいで怖すぎる」
「それ、モツ食いながら笑って話す幸田君も十分怖いよ。馴れだろうな」
「1度見せてあげたいな」
「絶対に嫌ですって」
この後、2軒程ハシゴ酒を楽しんだ広之であった。、
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