第192話 カリフォルニア開拓
昨年の夏頃、カリフォルニアへ向かう幕府の大船団は日本を後にした。長谷川秀一、仙石秀久、戸田勝隆(丹羽家の家老戸田勝成の兄)、堀尾吉晴、増田長盛、丹波屋仁兵衛を伴い総勢2万人規模である。
幕府では本格開拓を前に地名を取り決めてた。それまでアメリカ大陸を新亜州と呼んでいたが新亜大陸、へ変更の上、北米地域を新亜とした。南北全体は新亜大陸。さらにカリフォルニア州は東和州。サンフランシスコは龍門。サクラメントは
他にも新亜開拓では、安美騨、美田、荒上、安陽、一乗、伊月、大塔、大宝、智栄、瑠里光、葉振、扶支、鳳会、宝洛、明芳など、主に仏教から引用した地名が用意されている。
簡単な町を作り、物資が降ろされた。近隣の部族に酒や煙草など様々な物資を送る。基本的には北海道でアイヌに対して行ってるのと同様の対応だ。
龍門からサンノゼやモントレー方面にはオローニ族。また龍門湾から南東方面に流れるサンワーキン川流域にはヨクート族、チュマシュ族、パイユート族。サンワーキン川流域からアメリカン川にかけてミウォク。シャスタ川沿いにシャスタ族。フェザー川沿いにマイドゥ族。
昨年から残留している幕府の者たちは各部族と交流を重ねていた。簡単な言葉、信仰、食事、食材、風俗なども把握している。幕府の大船団が到着するや各地へ使者を派遣し、進物を送りつつ鮭・鹿・どんぐりなどを持ってくれば、様々な品物と交換すると約束。また品物が無い場合、人夫として働いても同様だと説明。
やはり歴史が示す通り北米の原住民は酒に弱い。それを見越して大量の酒が送られた。さらに煙草も大好評だ。ただし、北海道や沿海州同様、狩りという名目で鉄砲の威力を見せつけたりもする。
そうはいっても史実で白人がやったように奴隷狩りや伝導・宣教の名を借りた住民宣撫などは行わない。北海道と同じく天然痘対策も徹底している。幕府開拓団は北海道、沿海州、台湾、呂宋などでのノウハウを活かし、現地部族に受け入れられた。
食料については日本から大量に持参したが、早い段階で自給体制を整えたい。どんぐりが豊富なため豚の飼育も容易である。東和州はキングサーモン(鱒の介。チヌークサーモン)が豊富に取れるため、シーズンには龍門湾で大量捕獲した。じゃが芋、薩摩芋、とうもろこし、麦、豆類などの栽培も開始。
サンワーキン川(三輪川)は日本的ないいかただと暴れ川のため、流路を変えたり、治水工事の必要がある。氾濫を抑え込めるまでは日本のような水稲栽培可能な土地は限られてしまう。そこでシャムからもたらさた浮稲用品種の種籾で栽培を行っていた。
シャムもチャオプラヤー川下流域は湿地帯が多く、雨季で水量が増すと中下流域は洪水に見舞われる。そんな土地で行われているのが浮稲栽培だ。雨季の少し前に水田を耕起し、種籾を播種。その後、雨季で水かさが増すと、みるみる伸びていく。5m以上もの長さとなる。
三輪川は春頃からシェラネバダ山脈の雪が溶けるなどして水量が増えていく。そのため氾濫の前に耕起して播種。後は水位の上昇に任せるだけだ。刈り取りは小舟で行う。通常の水稲栽培は雑草が厄介だが、浮稲栽培ならば、その心配はない。
そして肝心の金採取のため、咲良へ拠点も作った。咲良川(サクラメント川)から金鉱原地帯へ通じる3本の川は上宝川(シャスタ川)、中宝川(フェザー川)、下宝川(アメリカン川)と名付ける。
多くの鉱夫が川を遡り奥地へ送り込まれて行く。金の採取を指揮する丹波屋仁兵衛も流石に驚いた。地中深く掘らずとも、川で大量に金が採取出来るのだ。この様な光景を目にするのは生まれて初めての事である。
丹波屋仁兵衛の計算では人数さえ揃えば年あたり、日本全体の百倍以上の金産出が可能なのだから、興奮せずにはおられない。それだけの金があれば、全てを解決してしまう。
鉱夫たちも十分な報酬を約束されている他、食料や酒も十分支給され士気は高い。大半はかつて大友、龍造寺、長宗我部、毛利、羽柴、明智、柴田、前田、佐々、北条などの足軽出身者が多く
また、今回の開拓団は女性や子供も多い。川での金採取や田畑の作業は女子供だろうと可能なためだ。そのため家族連れも多かったりする。ただ、独身者と妻帯者でトラブルが起きないよう、それぞれ作業や居住の区域は別けられた。
東和府長官に任命された増田長盛は大量の金を持たせ船団を帰還のため送り返し、大量の人と物資が必要である旨の書状も託されたのである。人さえ居ればかつてない程の金が取れるだろうし、米も大量に収穫出来るはずだ。
農耕や運搬のための牛が欲しい。幕府からバイソンと持ち込んだ牛を交配させるよう指示があったため、早速試した。日本牛の雄とバイソンの雌を掛け合わせる。これを何度か繰り返す予定だ。
金採取の拠点となる咲良の倉庫には途方もない数量の金が積み上げられ、幕府船の到来を待っていた。
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