第180話 丹羽長秀の遼東仕置
丹羽長秀は幸田孝之と真田信繁(幸村)を送り出した後、瀋陽で仕置(広義の意味で)に追われている。ウラ国王マンタイ、イェヘ国王ブジャンタイ、旧イエヘ国王ブジャイ、北河国王の連盟で女直全体へ布告を出させた。
一.今後、海西、建州、野人全ての地域を清州とする。
一.今後、清州はウラ国王、イェヘ国王、北河国王、ブジャイによる合議にて全体の事を決する。
一.遼東は日本国遼東州とする。
一.野人地域の東北は日本国沿海州となる。
一.建州は遼東州の直轄地だが清州の決めたる事には従う事。
一.清州は日本国と盟約関係にある。
一.清州での私闘は禁ずる。
一.清州、遼東州、沿海州での掠奪狼藉を禁ずる。
一.日本国人と明国人の往来を保護する事。
一.各族長は戸数、馬の数、牛の数、皮や朝鮮人参の生産量、田畑の広さを報告する事。
一.明国の馬市は廃止。新たに瀋陽、開原、栄明、栄寧、栄河、沿海府で行われ勅書は不要とする。
一.馬、皮、朝鮮人参などは等級により全て価格が公示される。
上記は主なものである。大坂に清州公使館を置くことや留学生を送ることも決まった。さらに、制圧した遼東各地の行政は漢族の商人を郡司へ据えることで自治制を敷いている。遼東総兵、ハタ国、マンジュ国などの残党を集めて別個に部隊を作らせた。幕府軍と併せて関東軍と名付ける常備兵を組織。
問題は蒙古への対応であった。遼東州や清州に隣接する蒙古諸部への対応はまだ定まっていない。ただ逆らえば討伐する方針だ。
清州を通じてチャハル部(察哈爾)、ハルハ部(喀爾喀)、ホルチン部(科爾沁)などへ広寧にて勅書なく取り引きが出来ることを告げた。ホルチン部はイェヘ国と懇意な関係であり、間近で遼東が制圧される様やハダ国の滅亡を見ているだけに反応も早い。
しかも、ホルチン部は昨年よりウラ国へ馬を大量に売っていた。情勢を薄々察していたが、様子見を決め込んでいたのだ。ホルチン部といってもノン・ホルチン (嫩科爾沁) とアル・ホルチン(阿魯科爾沁)があり、同族の別集団である。
アル・ホルチンはチャハル部の傘下のような状態で、通常ホルチン部といえば主にノン・ホルチンを指す。そのノン・ホルチンだが、西隣りのハルハ部とは緊張状態だ。
清州や遼東州と結び勢力を伸ばしたいわけで、イェヘやハダが事実上ウラナラ氏(烏拉那拉氏)の支配地域となり、ノン・ホルチン部首長ウンガダイ(恍惚太)の決断は早かった。
ウンガダイはフルン四部やマンジュの状況を早馬で聞くや凄まじい早さで長秀の下へ現れ、盟約を申し込んだのである。長秀は取引の件を直接ウンガダイへ告げ、歓待した。
そんな時、幕府の兵士に伴われ明国朝廷の使節が到着。北京制圧と会談の内容が伝わった。長秀は使節へ、遼東では日本及び女直による掠奪は一切なく、自治をさせていると説明。
今後、山海関の北側から明国が脅かされる事は無いので安心するよう伝えた。そして、使節を女直や遼東の漢族たちと日本へ向かせたのである。
「五郎三殿……彦右衛門殿は明の帝を捕えて首を刎ねませぬのでござろう。この勢いなら勝てましょう」
「そう思うじゃろ。だがな筑前(羽柴秀吉)よ、侮ってはならぬ。人の数は遥かに多い。我らは草むらで暮らす蒙古とは異なる。食える分だけの土地があれば十分。あとは明国と商いを自由に行えば、いくらでも銭は入ってくる。上海というのは明国の陪都がある南京(応天府)、杭州、蘇州、寧波など大きな町に囲まれており、何れは大坂並かそれ以上の賑わいとなろう。この遼東とて落ち着けば沢山の漢人が流れてくる。物事は長い目で見て、打つ手は早いに限る。これからは湊と航路を制した者が勝ちじゃ」
「然様でございますか。私も明の都へ1度行ってみたいものですな」
「お主が興味あるのは明国の都おんなであろう。この国は絹の道というのがあり、遥か西方と繋がっておる。白い肌で青き眼をした絶世の美女も居るという話じゃ……」
思わず真顔で唾を飲み込む秀吉であった。
長秀たちは久々の暑さが少し身に堪えるももの、極寒の寒さよりはましだ。兵士たちも包子、餃子、麺類などに舌鼓を打ち、疲れを癒やすのであった。
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