第166話 大坂うどん事情
大坂の人口は増える一方だが、男女比は6:4。男性のほうが多い。史実における江戸の男女比は4:1とされており、圧倒的な女性不足である。それに比べたら大坂はまだ許容範囲だ。
しかし、独身男性が多いのは間違いなく、史実の江戸と同様、棒手振り、屋台、飲食店など、繁盛している。七輪を使い小さな土鍋で米を炊く者も居た。米が炊きあがった後、味噌汁や小鍋を作り、糠床から野菜を引き出して切れば、最低限の食事となる。
夕食時、長屋の路地は無数の棒手振りが行き交い、魚を選べば刺し身にしてくれるし、煮物なども売っており、おかずには事欠かない。また、近所には焼き魚を売る店さえあった。
半自炊とでもいうのであろうか。もっとずぼらになると小さい土鍋に野菜を適当に切って米と一緒に煮る。味つけは味噌か塩を適当に入れるだけだ。
それすらしない横着者は棒手振りの蕎麦やうどん売りから買う。井戸のあたりで商いをしており、丼ぶりを持って行けばその場で麺を茹であげ、入れてくれる。しかも、蕎麦やうどんを商う者の近くには天ぷら、油揚げの煮付け(きつね)、焼き餅を売る者も居た。
例えばうどんを買い、ついでに油揚げや穴子の天ぷらも買ってのせれば完璧な食事となる。蕎麦やうどんだけで腹一杯とならない者を見込んで、かやくご飯、早寿司、押し寿司も徘徊しており、油断ならない。
蕎麦やうどんを食べ終わり酒でも飲むとしよう。つまり夕飯のピークタイム後だ。そうすると蒲鉾や薩摩揚げなどを売る者が現れる。
無論、羽振りの良い者は、もっぱら外食だ。外食も多様な種類があった。その中でも、とりわけ店舗数が多いのは蕎麦とうどんだ。魚などは鮮度の問題がある。しかし、蕎麦とうどんは遅い時間であろうが麺さえ打てば何とかなってしまう。
さて、今回は大坂におけるうどんがどうなってるか案内したい。現在大坂では以下のうどん(亜種を含む)が食べられている。
普通のうどん、讃岐うどん、博多うどん、鍋焼きうどん、うどんすき、小田巻き蒸し、味噌うどん、武蔵野肉うどん、きしめん、伊勢うどん、芋川うどん、ほうとう、おっきりこみ。
讃岐、武蔵野、伊勢、芋川、氷見、小田巻きなど、いずれも名称は異なっているが、本来的であれば大坂と縁のないうどんまで、大坂発祥となっていた。
普通のうどんにしても出汁は店によって特色があり、傾向も異なっている。かわら版の番付は多種多様だが、蕎麦とうどんについては物凄い人気だ。各かわら版屋は誇りを掛けて毎年番付を売り出す。番付の内容がおかしいと版元は耐え難い中傷に晒されれてしまう。
現代のラーメン屋でも実は居酒屋や焼肉屋にて出す限定メニューのラーメンが結構美味い、という事がある。大坂のうどんも同様で高級な料理屋や寺が振る舞う物なども番外に出ており、そのへんの匙加減がマニアの評価を左右した。
庶民に絶大な支持を受けている角亀製麺は大坂に支店が多数ある程。天ぷらの種類が豊富で酒の肴としても人気だ。てんぷらに力を入れる店も多いが、おでんや丼ぶり物凄いを一緒に出す場合も結構あった。
しかし、蕎麦もそうだが、うどんの一番美味い所は幸田権大納言家の屋敷というのは暗黙の了解となっている。そもそも幸田家経営の書籍問屋がうどんのレシピやハウツーに関する書籍を発行しており、ほぼ全ての店は亜流だ。
そんな幸田家において、うどんは昼食の定番であった。ある日の幸田家での昼食を見てみよう。
先ず、哲普などの男衆がうどんを入念に打つ。薄力粉10に対し水は4。寝かす時間は無し。これを約40分程茹であげる。そう、この日は柔いことで有名な博多うどん風だ。
哲普たちが麺を打っている間、お蒔(初登場です)が出汁を作っていた。昆布、鰹節、干し椎茸、あご煮干しを順番に入れる。これを濾した後、薄口醤油、魚醤、味醂で味付けして出来上がりだ。
お初は金万福と天ぷらの仕込みをしていた。先ず白身魚をすり身にして丸天が作られる。揚げている間、新牛蒡を切って酢水に浸けてアク抜きをしたり、熊海老の殻や背わたを取るなど手際がいい。
そして麺の茹で上がり間近に新牛蒡と熊海老を揚げる。新牛蒡は薄力粉、片栗粉、水で作ったころもを付けて2度揚げした。麺を茹でてる間、哲普は温玉を作ったり、九条葱を切るなど、動きに無駄がない。
茹で上がった柔らかい麺は丼ぶりに入れられ、汁をなみなみと注ぐ。そこへ新牛蒡や熊海老の天ぷら、丸天、温玉、おぼろ昆布、九条葱などが盛り付けられた。
こうして完成した幸田家特製博多風うどんが、待ちかねていた五徳たちの所へ運ばれる。この日は竹子と茶々も例の柔らかいうどんだと知らされ食べに来ていた。
全員完食した後、そのまま申の刻茶へ突入。屋敷詰めの者が食べる分も作り終えた哲普たちは自分たちの分も用意し、遅い昼食を取るのであった。
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