第159話 アジノトモ(味の友)開発と台湾
台湾南部には砂糖きび畑が多く、大半は砂糖となる。しかし、昨年から味の友(アジノトモ。漢名は味友)が大量生産されていた。現代でいう酵母エキスだ。ようするに無添加扱いのうま味調味料みたいなものである。
大坂からの指示で開発を何年も行った結果、それらしい物が完成した。砂糖きびから糖蜜を取り出す。さらに酵母を加え増殖させる。酵母は栄養分取り込む。これを抽出したものが酵母エキスだ。
幸田広之家中で製法を研究していたが、幾つかの壁を乗り越えられず一旦凍結。しかし、ワインやパンの専門家をイスパニア経由で招いた事やジョホール国経由で来日したペルシャ人などの高度な発酵と化学の知見から開発へ辿り着いた。
さらに味の友から派生した華味も開発。味の友、ラード、鶏油、味醂、塩、砂糖、香辛料などを混ぜた物だ。これさえ少し加えれば簡単に料理の骨格となる味が作り出せる。
先ず台湾の明国料理店で爆発的に流行ったのは言うまでもない。華味は現代の人気駅弁ひっぱりたこ飯のような容器へ入れられ販売されている。
そして明国へも味の友と華味は輸出され売れまくっている。砂糖より遥かに高い価格であり儲けは大きい。この他にも牡蠣油、香味醤油(シーズニングソース。空豆に様々な物を加えて作っている)、柱侯醤、XO醤、香辣油(老干媽風)、魚醤なども人気だ。
明国へ売る場合、当然紙幣は受け付けない。支払いは銅銭、砂糖、生糸、硝石、鉛などだ。明国も現在、再び海禁に転じ、密輸を取り締まる方針が北京より通達されてはいる。
福建の漳州を拠点に正規貿易へ従事していた倭寇上がりの明国商人は海禁で方向転換。かつてのような掠奪はしないが、密貿易と蛇頭行為で稼ぎまくっている。
織田幕府の南方開拓府は人身売買を禁じており、密航料の徴収も認めていない。その代わり、台湾へ移民を連れてくれば船賃として報奨金が支払われた。
もはや福建や広東の北部に於いて、台湾へは夢の国という認識だ。行けば、住むところや仕事もある。入植に申し込めば土地も宛てがってもらえる上、村毎の簡単なこと賦役以外は年貢もない。
日本から来ている役人は賄賂も取らず何れの町や村の治安も良いという。そのような話は噂の域を出ていた。漁民が台湾で事実を目の当たりにしているし、故郷へ移民した者が残っている家族や類縁を誘いに帰って来るのだ。
明国はここ数年日本より銀や銅が殆ど入ってこない上、頼みの綱となるマニラからの銀さえ入手量が激減。そのため紙幣発行は増えるばかりで、物価も上昇する一方だ。完全な危険水域であり、台湾への移民は激増。
取り締まる側の明国艦船は圧倒的な数で押し寄せる密貿易船団に勝てるはずもなく眺める他ない。
台湾の東部においても鰹漁と鰹節生産の拠点が幾つか作られた。現地部族へ十分な贈り物などをしつつ、攻撃してきた場合は容赦なく殲滅。
日本人や琉球人の住む環濠集落の湊町は物見櫓もある上、銃の威力に驚いた部族は攻めるより交流する道を選ぶ場合が大半だ。時折、やってくる巨船を見ただけで大抵の部族は戦意喪失してしまう。
ただ、それは平野部の話で、山林地帯は頑迷かつ勇敢だ。なので、奥地へは極力深入りしない。
さて、台湾の食事情であるが、やはり明国人の数もあってか、養豚や養鶏は盛んだ。中でも豚は価格も手頃で簡単に入手可能。様々な加工をされたり、調理によって食べられる。
現代で有名な台湾料理といえば魯肉飯だ。しかしこの時代、魯肉飯屋というのはない。豚肉、スペアリブ、豚足、モツなどの煮込みを売っている店の大鍋では、他にも卵や豆腐類があって、客はおでんのように選べる。
適当に盛ってもらい酒を飲んだり、飯と一緒に食べるなど自由度が高い。飯をよそった丼ぶりに肉の切れ端や卵などのせ、汁を掛ければ、すなわち魯肉飯だ。
魚を食べるのは主に日本人である。琉球人は魚と豚どちらでも好む。酒はシャム米が豊富にある関係で泡盛の生産量が多い、その他には日本風の紹興酒やラム酒。日本酒はあまり出回ってない。
最後にもうひとつ台湾名物を紹介しよう。台湾うどんといわれるもので、出汁は豚骨と鰹節。具は排骨、スペアリブ、脆皮焼肉(揚げ豚)、紅焼肉(豚の角煮)、豚足、モツ煮などをふんだんに使っている。味付けは魚醤と味の友だ。
発展目覚ましい台湾であった。
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