第156話 美食天国バンコク

 バンコクには日本人の他、明国人、シャム人、クメール人、琉球人などが住んでいる。その上、多くの民族が貿易で訪れており国際都市の様相を呈していた。


 多くの人で賑わうエラワン通り沿いには無数の飲食店が軒を連ねている。日本、明、シャム、ジョホール、大越などの料理が揃っており、ある意味で大坂以上だ。


 史実における江戸と同じで独身男性の多い大都市は自然と外食文化や棒手振りが発達する宿命といえよう。


 無数にある運河を使い、近郊の農家が採れたての野菜や鶏卵などを届ける。あるいは店の裏にある舟で水上市場へ行けば、常に捌きたての豚や鶏が買えた。無論、魚なども同様に入手可能だ。


 ただ問題は何といっても暑さである。そのため砂糖を使ったり、汁物、焼き物、蒸し物が中心となってします。例えばタイ料理屋などではゲーンといわれる汁物が何種類も店先で温められており、客は好きなのを選べばご飯に掛けて出してくれる。


 最近では唐辛子が急速に普及し、防腐対策のため使われつつあった。また砂糖きびの栽培と製糖が盛んになって、こちらも防腐効果からココナッツと組み合わせるなどして甘い料理となる。


 その中でもアモック(クメール語。タイ語ではホーモック)といわれる蒸しカレーはクメール人とシャム人の間では大人気だ。鶏、魚、野菜などをココナッツミルク(クリームを含む)や香辛料と合わせバナナの葉で作った容器へ盛り、蒸した物である。


 食材の味、ナンプラー、ガピ(オキアミの味噌)、ココナッツ、砂糖などが相まってたまらない味わいだ。酒の肴にする者も居れば、ご飯と一緒に食べたりもする。


 やはりシャム人、クメール人、ラーンナー人などがよく食べるソーセージやハムのような物があった。こちらも日持ちする物だ。


 先ず、ネームとサイコーは何れも発酵させてあり酸味がある。ネームの方は豚が入っており発酵しているため薄く切り、加熱せず食べてしまう。サイコーは豚以外に糯米を加えており、炭火でじっくり焼いて食べる。


 さらにムーヨーといわれる物はほぼハムだ。これはバナナの葉に包まれ蒸されていたりする。注文すると、その場で切ってタレや野菜と一緒に出された。


 ネーム、サイコー、ムーヨーの何れも酒の肴として人気があり、シャム人やクメール人の労働者はこれらの料理やホイクレーン・ルアック(赤貝に似たサルボウ貝をレアに茹でた物)、ガイヤーン(鶏を焼いた物)、鯰の塩焼きなどでラオカオ(泡盛のルーツ)を飲む。


 日本人や明国人の中にもこれらの味わいを知って利用する者が多く言葉や文化の壁を壊しつつあった。


 明国人は鶏を逐次解体するし、豚も一旦茹でて吊るしたり、揚げるなどして傷むのを遅らせるなど、そのへんは流石に長けている。また彼らの作る粥、油条、叉焼、包子、餃子、焼売、麺類の店は民族を問わず人気があった。


 現代におけるタイやマレー半島の有名料理であるカオマンガイ(シンガポールでは海南鶏飯。茹で鶏をご飯にのせた物)の原型はは海南島名物の文昌鶏だといわれているが、多文化融合都市のバンコクではすでに登場しており、明国料理として人気だ。


 現代におけるマレーシアの有名料理である肉骨茶(バクテー)は英国統治時代の発祥とされるが、すでにバンコクの人形料理となっている。肉のほとんど付いてない豚の肋骨を生薬、香辛料、中国醤油などで煮たものを客に供する時、土鍋で出す。


 汁を飲んだり、ご飯に掛けて食べたりする。また油条を汁に浸しても美味しい。暑さの中、肉体を酷使する苦力(クーリー。中国系下層労働者)が安く手に入る食材として、本来なら捨てるような豚の肋骨で朝からスタミナ付けるため食べる働く男の勝負飯だ。


 これに似た料理はタイにもあるガオラオ(麺無しスープ)と言われるスープで具材は豚や牛(肉やモツ、つみれ)、豚の血を固めた物、野菜などが入っており、味は薄味でご飯と食べる。これも肉骨茶と発想は似た料理であろう。


 比較的新しい部類の料理だと思われるが、肉骨茶と同じくバンコクではすでにあって、日本人にも人気の料理となっている。


 明国系の料理だと脆皮焼肉(揚げ豚)、広東焼鴨(広東風ローストダッグ)、紅焼肉(豚の角煮)、猪脚焼(豚足煮)、排骨(パイクー。本来台湾の名物。肉が沢山付いたスペアリブを揚げたもの)などをご飯にのせた物は民族問わず人気だ。


 この他にも煲仔飯という日本の釜飯みたいな料理は炊きたてを食べれる上、比較的安価な価格で飛ぶように売れる。


 さて日本人の料理屋はラーメン、うどん、焼鳥、唐揚げ、天ぷら、おでん、軍鶏鍋、焼き魚などが人気があった。特に人気なのはラーメンで一緒に出される焼餃子含め明国人も食べる。


 しかし日本人の店で最も繁盛しているのは茶店だ。抹茶ラテや焙じ茶ラテはバンコクでも受け入れられている。

  

 最後にジョホール料理屋だがインド系料理の影響を受けており最も異質な部類であった。かなりスパイシーな料理も多く明国人や日本人は敬遠している。


 このように豊富な食材と暑さゆえの鮮度、多彩な民族料理にも反映され、飛躍的な発展となり、人々の胃袋を満たしていた。


 

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