第141話 豚と鶏尽くしの宴
織田幕府は今夏、カリフォルニア開拓のためおよそ2万人程送り込んだ。その他、北海道、樺太、千島、カムチャッカに5万人程。南方へも5万人程。
南方へ送る船は台湾やシャムで作られており、北海道方面への船は奥羽で作られた。
造船や物資調達のため好景気に湧いている。イスパニアの船はカリフォルニア開拓船団が去った後に来航し、生糸、絹、茶、磁器、毛皮(沿海州を届いたもの)を買い込んだ。これにより莫大な銀がもたらされた。
その頃、明国の宮廷内でも事態を察しており、台湾征伐論が検討される。しかし現実的に不可能と判断。ただでさえ近年、日本より銀や銅が入って来なくなり、マニラからの銀さえも減ってしまった。
むしろ流出している現状を鑑み、突如海禁を復活させたのだ。それにより紙幣発行を大幅に増やす事を決定。
多くの明国商船は密貿易に活路を見出す他なく、海南島が一大拠点となりつつあった。
それに対し、日本の商船はアジア各国で航路を構築。大量の米、香辛料、砂糖、皮、鉛、硝石、木材などを買い付けていく。完全に南方貿易で日本がポルトガルや明国商人を駆逐する体制は整った。
台湾は福建省側の役人や軍人もほぼ買収されており、密貿易は見逃している。また内陸の農村部から逃げ出してきた農民が漁船で台湾へ流れ混んでいる。その数は日に数百人を超えるほどだ。
台湾に来て次の日から茶畑、砂糖きび畑、キャッサバ畑、砂糖精製場、鰹節加工場、造船所などで仕事を貰え、希望すれば順番に開墾地が割り振られた。農機具なども全て貸し出され、当面の食料も支給。
琉球国の圧政に苦しむ八重山諸島の住民はほぼ台湾へ移住し無人に近い有り様だ。
幸田広之はそのような状況に満足しつつ、来年の満蒙方面への対策を考えいた。ウラ国の件は全くの誤算であり、軌道修正する必要がある。誤算といっても嬉しい誤算だ。
明国はいよいよ末期だ。これから狂ったように戦費が嵩み紙幣の乱造と税の取り立てを厳しくする他なく、いずれ各地で反乱となろう。
史実においても文禄・慶長の役や対満州国絡みで膨大な戦費を余儀なくされ、反乱が起き皇帝は自決した。
最悪の事態となる前、条約を結びたい。日本の場合は明の大衆からは見えにくい形で事実上の経済制裁を行っている。台湾において逃亡していきた明の民を優遇するのも全ては布石だ。
来たるべき時には民衆救済を旗印として華南あたりへ攻め込む。次々に自治区を作り税は取らない。その代わり通貨を発行し、自由に商売をさせてもらう。
出兵する事もままならなくなったら、全ての冊封関係や朝貢を破棄させた上、存続させる。
それはともかく、ウラ国から来た王族を歓迎する宴を催したい。しかし、これで女直は13人になってしまう。
ウラ国はどちらかというと蒙古に近い。北河城の領域あたり、民の半分以上がホジェンである。つまり和人とハーフのアイヌ、和人とハーフの琉球人くらいの違いはあるはず。いずれにしろ仲良くやってもらいたい。
大坂までの道中、嫌というほど魚を食ったはずだから豚や鶏を食べさせてあげよう。豚の繁殖力は凄いので河内や淡路島で育成している頭数も増える一方。
イスパニア原産、呂宋産、シャム産、広南産、朝鮮産、明国産、九州で明国人が飼っていた豚を色々掛け合わせている。河内でどんぐりや芋類を食わしたものは特に美味い。
東坡肉、脆皮焼肉、酢豚、サラミ、雲白肉、チーズタッカルビにしよう。
こうして、ある日の夕刻、広之の家族や幸田家の重臣を招き宴が行われた。
あらゆる酒が用意されている。日本酒(清酒と濁り酒)、焼酎、泡盛古酒(シャム米で作った台湾産)、ワイン、梅酒、杏子酒、ビワ酒、山桃酒、柚子酒など。
先ずは数々の前菜で酒を飲むが、ウラ国の者たちは少しづつ試しては驚いている。ウラ国では黍で作られた黄酒か馬乳酒しか飲んだことがない。
ナムダリとアブタイはサラミや腸詰めをこわごわと食べては酒で流し込む。他にも出来たての骨付きハム、テリーヌ、ナムルなども少しづつ口にしては、段々食べる量が増えていった。
「イルハ殿、このようなものを毎日食べておられるのですか……」
「アブタイ様、普段は少し異なります。今日出されてるのは日本人が日頃食べるものではなく、どちらかといえば明や西洋の料理でございます」
そして脆皮焼肉、雲白肉などが運ばれてきた。
脆皮焼肉は酒や砂糖などに漬けて水分を拭き取った後、油で揚げたものだ。バラ肉を使っており塊ごと揚げている。揚げた後、4cmくらいに切り分け、それを1cm程の厚みで切ったものが古伊万里風の皿に並ぶ。
雲白肉は茹でた豚肉を薄く切り、薄切り胡瓜などと味噌ダレに付けて食べる料理だ。
「アブタイ様、この料理はどちらも豚肉にて、大変美味でございます」
脆皮焼肉には味噌ダレ、醤油ダレ、ハニーマスタード、胡麻油ダレ、幸田家秘伝の万能スパイスが選り取り見取りで並ぶ。
万能スパイスを選び、口にしたアブタイの目が輝く。そして雲白肉も口にするが、美味しさに感心仕切り。
どちらの料理も風味付けとして珍年紹興酒が使われており豚の癖を抑え、香りは格別。
さらに酢豚とチーズタッカルビが登場する。
ウラ国の者は一斉に酢豚から食べた。やはり酢が効いており美味しい。大きな面積の広い鉄鍋に入ったチーズタッカルビは異様であり、なかなか手が出ない。
味噌や唐辛子で作った特製のヤンニョムで味付けされた鶏肉野上には大量のチーズが乗っている。鶏肉はヤンニョムと合わせる前に軽く燻製しており、香りが芳ばしい。また焼く際に無糖練乳も加えていた。
喜んでチーズタッカルビを食べるイルハを見て、ナムダリとアブタイも口へ運んだ……。
辛さとチーズに驚くが、その美味しさは食べ始めたら止まらない。蒙古風のチーズは知っており、同じ部類だと直ぐ気付いた様子。
イルハは女中にご飯を持ってこさせた。
ウラ国の者たちはご飯と酒を交互に……。こうして宴は続くのであった。
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