第138話 長秀の野望
北河城を攻めたウラ国の大軍が壊滅した事は周辺各地へ、瞬く間に広まった。続々と有力主張も服属するため北河城を訪れており、城外には長い順番待ちの列が出来るほどだ。
さらに幕府艦隊の数隻が黒龍江や松花江流域の城を北河城主の家臣たちと訪問してまわった。示威行動的な側面もあるが、各地で馬や皮を高値で買い取る。
大型の船と財力に接した首長たちは歯向かう気はさらさら無く、次々と服属を申し出てきた。最終目標は先行するマンタイを乗せた船の目的地である哈爾浜付近だ。
丹羽長秀は日本で幸田広之から南下する場合、重要拠点であり確実に抑えて欲しいと念押されていた場所だった。
一方、比較的小さい船はウスリー川を南下。ウスリー川の東側にはキャカラの集落が点在しており、これまでは野人女直のウェジ部などに献納していた。
彼らはヘラジカ、アカシカ、ジャコウジカ、クマなどを食用のため狩猟して、皮を集める。さらに黒貂やカワウソも毛皮目的で狩猟した。その上、居住地域で朝鮮人参も取れる。
この地域は虎が大量に棲息しており、一行にとっては恐怖であった。ハンカ湖の確認が目標であり、ひたすら南下する。
アムール川を遡る船は蒙古部族と接触およびネルチンスクの確認が目的であり、果てしない移動を続けていた。
無論、これは東進するロシアを警戒しての事だ。史実において1582年(ユリウス暦)、イェルマーク率いるコサック軍はシビル・ハン国首都を一時占領。
1585年(以後、グレゴリオ暦)、奇襲によりコサック軍は壊滅。この時、イェルマークは戦死。それでも、ロシアの侵略は続き、1598年にシビル・ハン国は滅亡する。
その後、東方へ進むもステップ地帯は遊牧民族が多く危険なため北方のタイガ地帯を着実に切り拓いた。1628年、エニセイ川流域にクラスノヤルスク要塞を築く。
エヴェンキを制圧すると南下。ブリヤートを制圧し、1652年にイルクーツク要塞建設。イルクーツク要塞建設前の1649年、オホーツク要塞とアナディル要塞が建設している。
まだ、ロシアはシビル・ハン国の制圧に苦戦しているが、いずれ来るのは間違いない。広之の構想ではイルクーツクとヤクーツクに拠点を作り、レナ川が第一防衛線。さらにエニセイ川沿いにクラスノヤルスクとエニセイスクを作り、第二防衛線。そして、第三防衛線がオビ川でノボシビルスクを建設。
オビ川のラインで次々と湧いてくるロシア人を逐次撃滅させたい。現在のイルクーツク州には有力な油田とガス田がある。さらにオビ川流域にも大規模な油田があり、ロシアを支えているのだ。それらが無ければロシアの発展も難しく、違った歴史になる可能性が高い。
その第一歩として北方の騎馬民族もとい鹿民族のエヴェンキ調略は大事だった。羽柴秀吉たちと戦端を開いてしまったが、国家レベルの集団ではない。
角倉に居るエヴェンキへ日本の言葉を学ばせ、厚遇する。そして、ナビゲーターになってもらうという地道な方向を長秀は模索していた。しかし角倉ではエヴェンキの訴えにより直江兼続がすでに動き始めており長秀はまだ知る由もない。
長秀は次々と訪れるフルハ部の首長を北河城主の家臣として組み込みつつ、普請作業するため人足を要請。こうして各地から集まった女直やホジェンなどをハバロフスクへ動員したのである。
ハバロフスクは栄河と名付けられ、越冬するための家が次々と作られていく。
また、丹波屋から派遣されている山師たちが次々に鉱床を探し出していた。鉄、銅、金、鉛、錫、水銀、石炭などだ。煉瓦に適した粘土も取り出しては次々に焼かれる。
そして、栄河の建設もある程度形になってきた頃、哈爾浜へ駐屯地を作るため千人程送った。行き違いでウラ国からの一行30名が到着。
長秀はナムダリ (納穆達里)とアブタイ(阿布泰)の日本行きを即決し、小型で速い船へ乗せて角倉へ送った。随員は8名。
残りの20名は栄河に留まり日本語を習得したり、送られてくる馬の世話などを行う。
長秀はナムダリから帰国後の様子を聞いて安堵していた。馬市という大きな土産を持たせた結果、癖の有りそうな伯父や重臣も表立って反発することはなかったのである。
馬の方も第一陣が遅れて到着し、来年の雪解け後に大量の馬を届けるとの話で、懸案事項は解消しそうだ。北河城主の家臣を配下になった各地首長へ派遣し、家系、姻戚関係、家族関係、家臣の数、領民の数、馬の数など詳細に調べさせ地歩を固めている。
ウスリー川を南下してた船は無事ハンカ湖へ至たり急ぎ栄河へ帰還。長秀へ報告。長秀はおよそ500名の越冬隊を送り込んだ。
しかし、その頃ハンカ湖やウラジオストックの近辺では大きな異変が起きていた。
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