第134話 沿海府普請奉行直江兼続

 今回、沿海州へ遠征した主な武将で唯一直江兼続だけ沿海府に残留を希望。他の武将たちは武勲を立てようと我先に戦地へ行きたい者ばかりだ。


 兼続は軍神と謳われた上杉謙信亡き後、上杉景勝を支え、執政として君臨していたほどの人物である。


 上杉景勝は謙信の養子であり、実家は上田長尾家出身。兼続の父樋口兼豊は上田長尾家当主政景(景勝の実父)の下で家老(諸説ある)を務めていた。


 政景の死後、春日山で景勝(当時は顕景)の小姓(諸説あり)となり、景勝を支えている。景勝が柴田勝家に討たれた後は上条政繁を上杉家の跡目へ据えた。


 その後、織田家直臣となり、丹羽長秀の下で働き、ついに念願の上杉家復興を果たす(磐城一国)。


 自身は景勝を支えきれなかったことを理由に磐城へ行かず、織田家直臣のまま。結果的に出羽で5万石の知行を拝領した。


 領地にはほとんど戻らず、江戸と大坂を往復。東京府の発展へ尽力し、その功績を認められ沿海府への遠征に加えられた。


 兼続は軍事を支えるのはとどのつまり国造りであり、根本だと思っている。軍神上杉謙信の長年に渡る関東遠征も越後の湊と青苧があったからこそ。


 東京府では江戸城造営、利根川東遷、水道網、関東の宿場町と駅伝、横浜の開発などに関与してきており、自身のなすべき事はわかっていた。


 先ずは道や水路を作りつつ、資源の量産体制を整えた。白樺や松(エゾマツや類似するもの)を伐採し、建築資材や炭にする。さらに粘土や泥炭を掘り、煉瓦作りも行なった。


 泥炭はいわば石炭のなりそこないだが、スコッチウイスキーで有名だったりする。これを適当に切り分け乾燥させれば燃料の補助剤としては申し分ない。


 泥炭の事は幕府総裁幸田広之より指示されていただけだが、実際に乾燥させて火を付け確認し、大量生産に入った。


 そして大量の煉瓦窯や炭小屋が立ち並んだ。乾燥させた泥炭や煉瓦を量産しつつ、海岸地帯に塩の加工小屋も作られた。


 やはり寒い気候であり塩田は効率悪い。そこで無数の竈を作り煮詰めて水分を飛ばす。数日ほど掛かるが十分な品質だ。1日あたり1石(約140~150kg)程にもなった。


 副産物として“にがり”を入手出来るので、大量に持ってきた大豆から豆腐も作られ、和人は大喜びした。


 とうもろこし用の畑も開墾し種を撒き、それが終わったら蕎麦用の畑も用意。


 そして丹羽長秀たちが北河城を目指して去った後、残った船の半分程は日本へ戻るため帰った。


 兼続は残った約1万2千強を5人1組にし、それをまとめる者は小頭、10組だと中頭、百組で大頭とした。つまり24人の大頭が居る。


 これら以外にもスメレンクル、エヴェンキ、ヴェイェニンなども加わり、彼らは主に煉瓦の運搬を担当。


  昨年、角倉了以や片桐直盛(且元)たちと日本へ渡ったスメレンクルも戻ってきており、日本が如何なる国なのか話した結果、極めて協力的である。


 報酬もさることながら、毎日食事が出され一生に数度食えるかどうかの米を食べさせてくれるのだ。休憩時のお茶や仕事終わり酒など、彼らからすれば破格の待遇である。


 そもそも狩り、採集、川での漁撈など彼らの生活を圧迫することは行わず、暴力や収奪も無く、恩恵しかない。


 ある日、トナカイの集団が現れた。羽柴秀吉たちに攻められ降伏していたエヴェンキの部族たちである。


 大艦隊の噂を聞きトナカイに乗ってやってきたのだ。噂を自分たちの目で確認した部族長たちは今後逆らわないので改めて傘下に入れて欲しいと申し出てきた。


 これには事情がある。エヴェンキの生活圏は広大で各地に点在していた。ヴェイェニンに手引きさせ秀吉たちを襲ったエヴェンキは東端に位置する部族集団で、逆襲された挙げ句、壊滅的な目にあい弱体化。


 そのため対立関係にある西方のエヴェンキ部族からの圧力を受け、生活が困難だという。忠誠の証として大量の鹿皮、各種毛皮を持参し、若い女性も差し出すため連れてきた。


 兼続は皮を受け取り、それ以上の品物を渡した。女性は不要だとし、300人ほど調教済みのトナカイで派遣する事を約束。


 もう少し派遣したかったが、トナカイは開拓のため貴重な戦力となっており、手許に十分残したかったからである。


 数日後、沿海府へ訪れた部族たちは幕府の兵を伴い去っていった。


 ほぼ同じく、樺太北東部へ夏鮭を取るための船を出した他、オゼリ湖とチリャ湖、ヌルガン跡などの測量も進み、集落作りが始まる。


 極寒の地で着々と生活の基盤が築かれていった。


 



 


 

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