第126話 豚骨ラーメンと福岡グルメ

 先日、イタリア人(正確に言うとイスパニア・ハプスブルグ朝に支配されたミラノ公国出身。日本でいえばロンバルディアが摂津でミラノは大坂のようなもの)のアブラギータ・フトッテーラにトマトソース尽くしのイタリア風料理を出したら、これは何という料理なのか聞いてきたので自信満々に北海道料理だと答えた。


 北海道料理はトマトを使う以外、イタリアの料理に似てる、と驚いていたが似すぎだろ。ともかく、これでトマトソースとチーズの組み合わせは北海道発祥の郷土料理となった。


 この勢いでビーフストロガノフ、ボルシチ、ピロシキ、フィッシュ&チップス、サンドイッチ、ハンバーガー、ジャンバラヤ、フライドチキンなども北海道料理ということにしてしまおう。


 中華料理、タイ料理、マレー料理、ベトナム料理は台湾に組み込む。韓国料理は沿海州料理にする。メキシコ料理とブラジル料理は北新亜州西南部(カリフォルニア)料理とすれば食の世界制覇も可能だ。


 他にも国内の料理は大半が大坂料理となりつつある。こうなれば、とことんやるしかない。


 この世界線でアメリカ合州国(東部13州)を無条件降伏させ大亜州帝国軍が進駐した暁には「ギブミーヨウカン」「ギブミーライスクッキー」とか言わせて、闇市でピザやハンバーガーは飛ぶよう売れる……かも知れない。


 さて妄想はともかく自分(幸田広之)の大好きな福岡や九州のグルメを再現してしまおう。


 現代で暮らしている頃は年に何度か福岡へ行くのが楽しみだった。LCCのキャンペーンをこまめにチェックし、格安で購入する。


 自分は大浴場付きのホテルがお気に入りだった。福岡市は西鉄バスが便利この上ない。スマホへアプリを入れておけば、迷わずどこへでも行ける。バスとシェアサイクルを組み合わせれば最強だ。


 飲み歩くのもいいが、ホテルで野球中継を見ながらスーパーやデパートで買ってきた刺し身と寿司で飲むのは格別である。〆のラーメンはフードデリバリーで注文することも可能。


 魚といえば北海道を思い浮かべる人が多い。しかし都会のスーパーで並ぶ刺し身のレベルとコスパについては福岡のほうが上だ。


 再現するとしたら、やはり筆頭は豚骨ラーメンであろう。他には、ごまさば(鯖の代用で鰤)、一口餃子、韮玉、鶏のたたき、豚バラ焼き、あちゃら漬けあたりだろうか。


 ということで、ある日の夕方に広之は豚骨スープの仕込みを始めた。骨を1度湯通して、水洗い。


 それを大釜に入れてひたすら炊く。24時間、3人交代でスープ番をさせながら骨と水が継ぎ足される。


 スープの作り方に金万福も興味津々だ。焼豚については豚の脛肉を使う。コンフィ風にしたい。そのためには明日まで塩漬けにする。


 そして次の日、広之は麺を哲普へ打たせつつ、自身はあちゃらず漬けを仕込む。“あちゃら”の語源はポルトガル語で漬物を意味するアチャールだと言われている。


 蕪、大根、胡瓜を塩揉みした後、酢、砂糖、胡麻油、昆布、鷹の爪、実山椒加え漬けるだけ。


 それが終わると、豚脛肉のコンフィ風焼豚を作る。ようは骨を外しでロール状にしたら、野菜と油を加え茹でるだけだ。


 さらに鰤を捌き、一口餃子へと進む。“ごまぶり”は出す直前に醤油、麹、味醂、日本酒、胡麻、すり胡麻に和える。


 一口餃子の具は大量の韭へ鶏と豚のミンチを加えたものだ。鶏の軟骨も入っており、コリコリ食感がアクセント。鶏と豚だけブライン液を加え肉汁が飛び出る。


 餃子とほぼ同じ材料で雲呑、さらに黄身がオレンジ色の味玉も作られた。


 最後に藁で鶏を炙って冷ます。これで完了だ。


 五徳、初、江、末、福、仙丸、イルハが揃っている。昨日から屋敷には豚骨スープの異様な匂いが漂い、やや不安気だ。


 さっそく、あちゃら漬け、ごまぶり、鶏のたたき、韮玉が運ばれてきた。


 広之はたまらず、ごまぶりを口へ運び、すかさず蕎麦焼酎で流し込む。


 韮玉を食べたイルハはその美味しさに喜びの声をあげる。かなり撹拌した卵へ水で溶いた片栗粉が入っており、仕上げに軽く混ぜた卵をのせたものだ。無論余熱で仕上げた。


 五徳、浅井二姉妹、福、末、仙丸は各々ごまぶりと鶏のたたきを食べる。このあたりは経験の差だろう。


「左衛門殿、これは鰤と見ましたが、タレが効いてますなぁ。また焼酎とあう事……」


「五徳殿、焼酎にも合いますが、米の上にのせて食べてもこれまた美味。最後に茶を、注いでもよし」


「この鶏も皮目は程よく焼かれ風味も素晴らしい事、ヒネ鶏と若鶏を混ぜるあたり、流石は左衛門殿。タレも胡麻油とおろし土佐酢……。これも焼酎が何杯でも飲めそうな」


 初が鶏のたたきを大絶賛する。このメンツの中ではもっとも口が肥えており、舌は確かだ。


 ごまぶりや鶏叩きに舌鼓を打つ五徳たちも、韮玉を少しナメた感じで食べた途端、箸が止まった。 


 付けダレはスゥイートチリソース風だ。粗く砕いた鷹の爪、乾燥にんにくを炒って砕いたもの、干したスルメ、ナンプラー、酢、塩、砂糖などで作っている。


 これも焼酎にあう。少し辛いが甘さやナンプラーと干したスルメの風味が癖になる。


 さらに、一口餃子と豚バラ焼きが登場。


 やはり、イルハが一口餃子を食べる。しかし、飛び出る肉汁と熱さに悶絶。他の者は薄々わかっていたので豚バラから行く。


 福は一口餃子を十分タレに付けた後、あちゃら漬けをのせて食べた。広之は勘がいいな、と感心する。


 現代でも広之は自宅で餃子を焼く時、両面焼いて、大根と人参のなますや千切りにした白菜漬けをのせるのが好きだった。


 焼き餃子を辛子マヨネーズで食べる裏技もあったが、犬神霊時と肉山298に酷評されている。


 散々、飲み食いして大満足の五徳たちであったが、いよいよ真打ちの豚骨ラーメンが出てきた。これには皆驚いている。


「左衛門殿、もう食べられませぬぞ」


「五徳殿、最後にこのラーメンは食べねば酒飲みとは言えませぬな」


 白濁した豚骨スープには、乾燥きくらげを戻したもの、豚脛肉を使ったとろけるような焼豚、オレンジ色の味玉などがのっている。


 広之は久方ぶりの豚骨ラーメンを喜んで食べまくった。本州人はよく知らず通ぶってバリカタを注文するが、無論出てくるまで伸びるのであまり意味ない。


 先ずは普通かヤワがいい。スープもあまり吸わず、それでいて麺に絡む。なので広之は普通で茹でさせた。


「左衛門殿、匂いからして、食べにくいかと思いましたが、なかなかの美味ですな」


「於江殿、これは気取らずお食べなされ」


 皆がゆっくり食べている間、広之は替え玉をバリカタでもってこさせる。バリカタは食感が命。食べるなら、替え玉だ(異論は認めます)。


 広之は高速でバリカタを食べるというより飲み込んだ。普段、あまり沢山食べない広之の豪快な食いっぷりに五徳たちも呆気に取られる。


 一方、台所では天神の屋台状態であった。豚脛肉の焼豚や豚骨ラーメンに金万福もご満悦。他の者も一口餃子や豚骨ラーメンを堪能している。


 こうして博多名物が大坂名物へと歴史改変される記念すべき宴は続くのであった。


 


 


 



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