第124話 トマトソース革命
丹羽長秀率いる沿海府への遠征軍を送り出すのに相当苦労したが、今度は新亜州(アメリカ大陸)への大規模な開拓団を送るため忙殺される織田幕府総裁幸田広之であった。
丹波屋仁兵衛へカリフォルニアでは砂金が大量に転がる川があるという話をしたら、自ら同行したいと懇願。
危険ではあるが、鉱山に関しては、いまや日本一の専門家たる丹波屋自らとなれば、心強い限りだ。
角倉了以、丹波屋仁兵衛、茶屋四郎次郎の幕府3大御用商人は天下国家への奉仕という観点や広之の薫陶を受け、日本の国益などの概念を刷り込まれている。
3人とも、互いに番頭を出向させるなどグループ化しつつあり、何かと連携する機会が増えていた。
例えば角倉了以が幕府の測量調査の指揮を執っており、各地の情報も手元へ集まってくる。それを共有しつつ、一緒に事業展開するなど共同出資に近いことまでしていた。
角倉了以と丹波屋仁兵衛が不在ならば、茶屋四郎次郎により両家は目配りされる。無論、茶屋四郎次郎へは両者より十分すぎる土産があるだろう。
沿海府遠征軍には茶屋四郎次郎と丹波屋仁兵衛の番頭や手代も角倉了以の配下として多数参加している。
今のところ留守番の茶屋四郎次郎だが、角倉了以帰還の折には、台湾、シャム、昭南島へ3年ほど赴きたいと言っており、行かす他ない。
様々な構想を練りつつ、唯一の楽しみである食事へのこだわりを忘れないのが広之だ。ようやく最低限レベルではあるがトマトソースなら何とかいける程度のトマトを収穫出来た。
そして、アブラギータが淡路島で作っているチーズも続々出来上がりつつある。モッツアレラ、マスカルポーネ、ブッラータ、リコッタ、ゴルゴンゾーラ、タレッジョ、グラナパダーノなどだ。
チーズ好きの広之を歓喜させたのは言うまでもない。早く生ハムが出来ないか心待ちにしてるが、まだ大分掛かるようだ。
しかし朗報がもたらされた。パルミジャーノレッジャーノに似たタイプのグラナパダーノが完成したという。
広之は満を持してハム、パンチェッタ、ソーセージ、サラミなどと一緒にチーズをアブラギータへ届けるよう使いを出した。そしてアブラギータが得意満面で幸田邸を訪れ、自慢のチーズを並べる。
グラナパダーノやタレッジョを見た広之はアブラギータがイタリア北部のロンバルディア出身か尋ねた。何故わかるのか仰天するアブラギータであった。
広之が台所へ入ると、アブラギータはお茶を飲みながら女中を口説きまくる。台所では平打ちパスタのタリアテッレやピザ生地が作られていた。
お初や哲普に指示を出しながら広之は不気味に笑いを堪えている。ついにこの日が来た。またもや歴史が変わる瞬間だ。興奮を抑えきれない広之……。
そして五徳、初、江、末、福、イルハ、仙丸、アブラギータなどが揃い歴史的な晩餐となった。
先ずはフランスのマルセイユ名物であるブイヤベースとサラミを出す。ブイヤベースは海老の頭や魚の中骨を軽く焼いて出汁を取っておりトマトの酸味や魚貝の旨味がほとばしる。
当然、アブラギータはトマトを食べたことがなく戸惑ってたが、あまりの美味しさに驚くのだった。
そしていよいよパスタが出てくる。煮詰めたトマトソースへフレッシュトマトと陰干しトマトで作ったトリプルソースに軽く茹でで粉を落としたタリアテッレ投入し、十分火を通して煮詰めたパスタた。
炒めたパンチェッタ、オリーブオイル、粉チーズにしたグラナパダーノなどもふんだんに使われている。
あまりの美味さに無言となるアブラギータ。五徳たちも赤いトマトソースに怯えつつもまんざらではない様子で食べていた。
さらにトマトケチャップで作ったナポリタンを出す。玉葱、ソーセージ、ミートボールを使い、自家製タバスコもどきも一緒だ。
あまりの甘さと酸味にむせつつ一心不乱に食べるアブラギータを見て、広之は堕ちやがったなイタリア人……と内心満足気だった。
さらにミートソースドリアが登場。米は軽く炒めたあとスープを加え、最後にグラナパダーノを加えチーズまみれ。そしてミートソースの上には大量のモッツアレラがのっている。少量づつとはいえ現代人でもきついはず。それでもアブラギータは食い続けた。
もう、これで終わりだろうと思った次の瞬間、いよいよピザのお出ましである。
トマトソースのピザで大量のタレッジョがのっていた。具はサラミ、ハム、パンチェッタ、ソーセージ、海老、玉葱などだ。
無論、イタリア風に薄焼きで作ってある。アブラギータは何故この屋敷ではこんなものが普通に出てくるのだろうか悩んでいた。
来日してから日本の食も味わっている。その多くは醤油や味噌󠄀で味付けされており、まったく方向性が異なってるではないか……。
しかし、このトマトソースを使ったピザらしい食べ物はあまりに美味い。美味すぎる。イタリアでこれを出せば普通に優勝間違いなしだ。
恐るべし幸田広之、と思うアブラギータであった。
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