第123話 ゴールドラッシュ計画

 新亜州(アメリカ大陸)から調査団が帰還して以来、織田幕府総裁の幸田広之は上機嫌であった。


 カムチャッカからアラスカへ向かった船と太平洋を直接横断した船。それぞれ生還出来る確率は半々なら上出来だと踏んでいた。


 腕のよい船員を集めただけに、遭難すれば新亜州への航路開拓は遠ざかってしまう。


 現代でいえば月面着陸に近い壮挙といえよう。角倉海峡の発見同様、偉業として後世まで語り継がれるはず。


 しかしイスパニアには当分秘匿したいので、今回の件はカムチャッカからの帰国と公表されている。


 この時代、ロサンゼルスなどは後回しで構わない。カリフォルニアへ大規模な開拓団を送る場合、起点はサンフランシスコ1択だ。


 そしてサクラメントに第2の大規模拠点を築く。そこからアメリカン川とフェザー川をシェラネバダ山脈へ、またサクラメント川を北カリフォルニア山脈に向かえばゴールドラッシュで名高い金鉱原がある。


 ゴールドラッシュでは初めの5年間に370トンもの膨大な金が採取されたという。佐渡金山で約400年に渡り採掘された金の総量は78トン。


 さらにアラスカは現代でも金が採掘されている。最大手のバリック・ゴールド社は年間に何と240トンも掘り出すらしい。


 他にもペルー、オーストラリア、南アフリカの金は全て抑えたい。その端緒となるのがカリフォルニアとアラスカだ。


 アラスカはあまりにも過酷なため、どちらを優先させるかといえば当然カリフォルニアしかない。


 カリフォルニアのゴールドラッシュは数年で人口200人のサンフランシスコが3万人都市となった。


 ちなみに江戸時代初期の慶長小判は17.8グラムほどの金含有量である。カリフォルニアで最初の5年間に370トン採取されたのなら慶長小判2千万両強だ。


 慶長小判1枚で米3~4石の価値があったという。つまり6~8千万石。四公六民でいえば6千万石の年貢を得るには1億5千万石必要。尾張300ヶ国分くらいだろうか。


 広之が思うに戦国時代への転生・転移物小説定番の南蛮貿易や商売で儲けるとか、どうでもいいような桁違いの破壊的数字だ。

 

 英国が本当の意味で覇権を握ったのは意外に遅く19世紀である。16世紀はイスパニアとポルトガル。17 世紀はオランダ。18世紀はオランダ、フランス、英国が凌ぎを削る。


 オランダと英国は人口が少ない。17世紀初頭に狂ったような財力で押せば欧州に押し込められるだろう。


 オランダは地中海貿易に強い。英国とオランダのどちらを取るかといえば、やはりオランダかも知れない。


 しかし、英国やオスマン・トルコと組み、一緒にオランダの地中海覇権を破壊出来れば展開として面白い。フランスを抱き込み英国を消滅させてもよいだろう。


 カリフォルニアとアラスカの金、そしてポトシ銀山があれば、あらゆる無茶が可能となる。


 肝心のカリフォルニアだが、史実では原住民の生活において糧となる猟場、漁場、採集地を荒らしまくった。


 結果、仕方なく立ち上がる。しかし、銃もない原住民が太刀打ち出来るはずもなく一方的な虐殺となり、絶滅した部族もあった。


 北海道方式で、原住民の糧には極力手出さず、自力で食料自給を目指すしかない。さらに原住民へ農耕の便宜をはかったり、贈答など重ね友好関係を築く。


 北海道といえば某ドラマの舞台として有名だ。このまま行けばカムチャッカやアラスカあたりが舞台の“極北の国から”とかに成りかねない。赤毛のアンも黒毛の杏になるのだろうか……。


 様々な構想を練りつつ、妄想にふける広之であった。

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