第121話 幕府北方探索船の帰還

 大坂に函館駐在の幕府調査団が乗るガレオン船2隻揃って帰還した。


 昨年の夏頃、千島列島を北上した調査団はカムチャッカ半島へ到達。そのままアリューシャン列島を東進し、アラスカからカナダやアメリカの西海岸を南下。


 一方、別の調査団は北大西洋海流に乗りアメリカ西海岸へ到達。原住民と交流を重ねつつ測量や同食物の調査などしていた。


 そして両調査団はサンフランシスコ湾で合流。双方、緯度や経度の書かれた雑だが、驚くほど正確な図面(地図)を所有していたおかげだ。


 図面には貿易風や海流の位置や重要な拠点も示されている。それを見て、サンフランシスコの位置へやってきたのだった。


 サンフランシスコ近辺にはオローニ族という狩猟、漁労、採集を行なう部族が住んでおり、本来の歴史ではイスパニア人の探検家セバスティアン・ビスカイノが1602年12月にモントレーに到達。


 イスパニアの新大陸における勢力圏はあまりに巨大だったためか、その後160年以上にわたって放置される。


 しかし1769年にガスパル・デ・ポルトラに率いられたイスパニア人の探検隊が来訪。この探検隊にはフランシスコ会の伝道師も加わっていた。


 こうしてイスパニアはモントレーとサンフランシスコに要塞を築く。伝道師はオローニ族の土地に7つの伝道所を築いた。


 ここでも歴史は大きく書き換えられたのである。西洋人より先にサンフランシスコへ日本人が到達し、オローニ族へ接触。


 オローニ族の協力を得ながら数々の調査をし、簡単な湊や屋敷も建てた。


 そして年が明けて、カリフォルニア海流から北赤道海流に乗り、呂宋経由で台湾の高雄へ辿り着く。さらに台北を経て琉球経由で戻ってきたのだ。


 調査団の半数ほどは現地に残って調査を継続している。


 夏から秋にかけて台湾や昭南島へ送る予定であるガレオン船は新亜州(アメリカ大陸)開拓団用にまわす事となった。


 台湾や昭南島へ回す予定のガレオン船は明とアチェ王国への威嚇であり、急を要するものではない。


 幸田広之は大坂城にある関係者以外立ち入り厳禁の部屋にて連日、織田信孝、幸田孝之、蜂屋頼隆、岡本良勝の5人で話し合いを重ねた。


 そして毎年2万人以上送り込む事を計画へ盛り込んだ。仮に毎年若い人男女を10年に渡り、毎年1万組送れば、50万人くらいになってもおかしくない。やはり数は力だ。


 1650年あたりには西海岸を日本人で埋め尽くす。そして、ロッキー山脈やネバダ州、ユタ州、カリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州などの砂漠地帯を越えてテキサス州やミシシッピー川流域へ進出。


 中西部の部族とは友好関係を保ち白人入植者の防波堤にするのが理想的だ。


 独立戦争を経て1776年にアメリカが独立宣言を発布した時点で東部13州の白人人口は約300万人と推定されている。


 今から産めよ増やせよで膨張し続ければ18世紀後半にはアメリカ合衆国の数十倍になっているだろう。いや、そもそも独立することもなく、英仏独蘭で壮絶に潰し合いをさせたい。


 誤解している人も多いが、西暦1591年時点の英国は決して大国ではなく、推定人口は500万人強ほど。


 ローマ時代の2世紀末、グレートブリテン島の人口は300万人という推定であり、戦争、飢餓、疫病などにより人口は何度も大激減を繰り返した。


 とりわけ14世紀の黒死病(ペスト)が大きい。無論、基本的に寒冷で食料生産が厳しいのもあっただろう。


 アメリカ合衆国が大きく成長するのは英国からの独立以降だ。また英国が大帝国として世界中を思うままに蹂躙するのは18世紀の産業革命後である。


 イスパニアの無敵艦隊を破った途端、大国になったわではない。1800年の時点でも人口は600万人程度。


 アジア貿易で富を蓄えることもなくイスパニアと潰し合いながら、国内の宗教対立や内紛により、大国化への道は開かせない。欧州はオスマン・トルコに蹂躙され19世紀を迎えてもらう。


 日本は世界に先駆けて、奴隷廃止や信仰の自由を掲げ大義の旗の下、欧州を圧倒する。そのような構想の絵図を組み立てる広之であった。


 アメリカの開拓だが、今年の船で馬、牛、豚、鶏を送りこむ。この時代大量に居るアメリカバイソン(バッファロー)は狩猟して食料とする。


 ただし、アメリカの原住民にとっても貴重な存在(食料であり、皮や骨も使う)だ。なので、本格的に駆除するのは原住民が農耕を始めてから、としたい。ターキー(七面鳥)も同様だろう。


 西部劇が東部劇、ボストン茶会事件がサンフランシスコ茶会事件、南北戦争が東西戦争、アメリカンBBQが炉端焼き……になるのかも知れない。


 そんなことを思いつつビーフステーキやハンバーガーを食べたくなる広之であった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る