第113話 丹羽長秀、北方へ旅立つ
西暦では早春の時期、幕府の大艦隊は敦賀に集結していた。沿海府を創設するための派兵である。
兵数約1万、黒鍬衆約2千、一般人約1千。これらに水夫が加わる。黒鍬衆は荷駄、陣中での雑役、普請などを行う者たちだ。
日本海側は春の嵐といわれる強風や波浪で危険だが、出発することになった。
丹羽長秀、戸田勝成、島清興(左近)、片桐直盛(且元)、前田利家、真田信繁(幸村)、直江兼続、最上義光、蘆名政道(伊達小次郎)、徳川秀康、本多忠勝、服部正成(いわゆる半蔵。半蔵は世襲)など多数の将が出征する。
これ以外に角倉了以やエドゥンを始め、商人、僧侶、大工、石工、鍛冶、農民、漁民なども多数加わっていた。
エドゥンたち女直は6人で来日したが、イルハと世話係の女性、さらに男性1人の3人は残る。残る男性は博識で漢文や蒙古語も多少読み書きが出来た。
エドゥンには織田信孝より甲冑や刀が贈られた他、いわゆる満蒙の地で文殊菩薩が崇拝されているため、大量の文殊菩薩像や絵も託された。
さらに現地の羽柴秀吉たちへ新たな甲冑、武具、着物も用意されていた。また秀吉の故郷である尾張中村で作った切り干し大根などもある。
食料については米、麦、蕎麦、稗、粟、豆、高野豆腐、梅干し、たくあん、蒟蒻粉、干し芋がら、干し椎茸、干しきくらげ、干し蕗、干しじゃが芋、干しとうもろこし、干しわかめ、干しひじき、煮干し、煎り海鼠、鰹節、素麺、播州うどん、茶、酒、味噌󠄀、酢、塩、砂糖、油などが積まれた。
播州うどんは幸田広之の発案で秋田名物の稲庭うどんを模して作ったものだ。
さらに離乳したばかりの仔豚や鶏だけ大量に積んだ船もある。
この他にも北海道で身欠き鰊、干し鱈、昆布、干し帆立、干し鮑、じゃが芋などが追加される。
じゃが芋は秋に収穫したものを凍らない程度の寒さで保存し、芋の糖度を十分引き出しものだ。
本来、北海道に住む和人やアイヌのご馳走となっているが、今回は幕府が高値で大量に買い付けてしまう。
敦賀は織田信孝による天下統一以来(奥羽における蜂起や九戸の乱は除く)となる大規模な遠征であり、活気に満ちていた。
その中にエドゥンたち女直の姿もある。
「エドゥン様、それにしても凄い数の船と荷物でございますな。人の数も実に多い……。国が丸ごと移動するかのような有り様」
「わざわざ東の果てまで来た甲斐があったというもの。これでも日本の国力からすれば大した事あるまい。今回はあくまで足場を作るため。それでも野人女直など小さな集落の集まりに過ぎぬゆえ、大半は従属するはず。ナリムブル(海西女直イェへ部=葉赫の長)が何も知らず攻めよせたとして、鉄砲を持った1万の兵など見たことあるまい。当分、野人諸部は安泰となろう」
「烏拉国(ウラ)の烏拉那拉(ウラナラ)家、同じ那拉氏の哈達那拉(ハダナラ)家が支配する哈達国、蒙古の泰寧衛部(オンリウト)らが襲って来ようと返り討ちに遭うでしょうな」
「然様じゃ。たとえナリムブルが攻めよせても敵わぬはず。我が伊爾根覚羅(イルゲンギョロ)家は栄えある覚羅氏の末である。建州のヌルハチも同族であるが、本来女直は遥か北方の民。だが、昔は遼を倒し、金国を打ち立てた事もある」
「その通りでございます。我らの土地は寒く痩せておりますが民は至って精悍。再び金国のような女直の民による強国を建てるのも夢ではありますまい」
「イェへ部から時折来る者たちの横柄さや卑しさときたら……。父上もどれだけ苦汁を舐めてきたか。それにくらべたら、将軍様や幸田殿の器量や高潔は別物。イルハも安心して残せる。出来れば女直の地や民も日本のようにしたいものじゃ」
「エドゥン様、幸田殿にはまた10人程送って欲しいと仰せつかってますが、今後に繋がりましょうな」
「優れた者を送りだそう。世の中いかに広いか知って損はない。我らは残念だが国の富ませ方を知らぬ。女直において国の豊かさは人や馬の数じゃ。日本へ来て、そんなものは豊かな内に入らん事がようわかった。豊かな国造りのためには日本より学ぶ他ない……」
そして航海の祈願も済み、大船団は敦賀を後にしたのだった。
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