第103話 幸田広之、第二子誕生と春日局
年末となり慌ただしくもあるが、幸田広之の家中も師走ムードで、年内に片付けるべき事案の処理へ追われていた。毎年恒例だが、師走の忙しさに対する奉公人への配慮で、食事や酒は大盤振る舞いとなっている。
昼には刺し身が出され、夕は若狭の俵物(塩鯖、新巻鮭、塩引き鮭など)や鶏や魚の鍋、そして夜食も宿直の者へは様々なご馳走が提供された。酔わない程度の晩酌も許されている。
そうはいっても警護の要である馬廻り役の家臣は許されない。勤務明けに十分な飲食を楽しみ床につく。現代でいえば夜勤明けの労働者さながらだ。
いずれにしろ他の家中では考えられないことであり、幸田家に仕える者は女中や小者も辞める事なく、モチベーションは高い。普通の大名家などは戦うことも無くなり、事務方の役職へ就いている者以外は、もっぱら鷹狩りのお供、警護、普請が主な仕事。
中堅以下の槍働き一筋みたいな家臣は武芸を磨く事で気を紛らわしつつ、治水工事や物資・年貢米の運搬へ駆り出されやさぐれている。そのため家中の空気は悪く諸大名たちは苦慮していた。
織田家は上級の家臣以外、武官と文官に色分けされ組織改革が終わっている。暇な武官が雑仕事するのは諸大名と同じ。しかし諸大名家中のような不平不満は渦巻いてない。
無論、広之は現代から来ているため過去の歴史を知っている。徳川幕府の旗本8万旗など張り子の虎で大した役(武器の違いはあれど)に立たなかった。100年もすれば主君のため本気で命を掛けて戦う気も失せる。
幕末を見ても強い思想・信念や郷土意識のほうが優ってしまう。そのため織田家は武官を戦闘集団として特化した上、織田家や織田信孝への忠義以上に日本国を護るという使命感を植え付けるような教育がなされている。
問題となりそうな国人系家臣も北海道や台湾へ開拓団を送り出す事へ注力しており、ガス抜きとなっている。開拓した土地での権利を一定割合認められており、収入の増加に繋がるためだ。
諸大名は各家臣の知行地から指定された農民や漁民を集め、身分の低い家臣と一緒に開拓団として送る。そのため大名や家臣のメリットはあまりなく不満に思う者も多い。
ただし、かつての領主や取り潰した国人の家臣を削れる事もあり、諸大名にはメリットとなっている。色々問題あるのだが、戦いを前提としていない幸田家中はそれ以外の仕事は山程あり、異質な存在であった。
唯一の武官ともいえる馬廻りは警護の専門家として広之の作ったメソッドを叩き込まれ厳しい訓練とマニュアルにより精鋭集団と化している。さて、そんな幸田家だが、側室の末は広之の次男となる子を無事に出産し、仙千代と名付けられた。
広之としては娘が欲しかったので、少し残念な気持ちもある。しかも、男なら幸田孝之の養子となる前提で、さっそく右幸田家(孝之の幸田家に対する呼び方)から、乳母含め仙千代の世話係が送られてきた。
右幸田家中も待望の世継ぎが誕生したとあって歓喜に満ちている。末の父は織田信雄の家臣であったが、柴田勝家勢との戦いにおいて自刃し、その後大坂で信孝に仕えている親戚の下で養われた。
養っていた親戚の家にも右幸田家や信孝から祝いの品が届けられている。しかし女子には恵まれなかったものの、幸田家には福という子供が養子として迎えられた。
福の父親は明智光秀の家老であり美濃の名門斎藤一族の斎藤利三。斎藤利三は山崎の合戦で徳川家康家臣の本多平八郎忠勝に討ち取られ、この世を去っている。
福は母方の実家である稲葉家へ身を寄せた。しかし、織田と柴田勝家の戦いに際して、福は稲葉家の親戚筋三条西公国(稲葉良通=一鉄妻の甥)の下へ送られ、そのまま養育されていたのだ。
福は12歳(数え)であり、三条西公国(史実ではすでに亡くなっている)は三法師(数えで11歳)との縁組を画策したが、流石に光秀や利三の所業からして無理な話。
暗礁に乗り上げたあと公国は近衛前久へ相談。前久の一計で広之の養女にして、時を稼ぎ、捲土重来という、いわばロンダリング作戦が練られた。
広之の第二子が産まれて翌日には公国と前久の訪問(形式的には出産祝いだが)を受け、半ば強引にねじ込まれたのである
断ろうとしたが、福が本来の歴史であれば春日局であることを知っている信孝と丹羽長秀は面白いから育てろ、という。仕方なく福を養女として迎え入れることに……。
公国や前久、さらに稲葉貞通(稲葉良通はすでに他界し家督を継いでいる)を招き仙千代誕生と福を養子に迎える宴席が設けられ、広之は3人の父となった。
しかし五徳と春日局、さらに茶々という夢の顔合わせに内心楽しみが増え、期待膨らむ広之である。
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