第98話 幸田広之、満州料理を作る

 織田幕府総裁の幸田広之は満蒙山丹ともいうべき地域での食事情についてエドゥンやイルハ、ホジェン(ナナイ)、スメレンクル(ニヴフ)などよりいろいろ確認した。


 現地で饗応された片桐直盛(且元)には食材含めて細かく聞いている。羽柴秀吉一行は長年の北方滞在でサバイバルに長けた探検家や調査隊と化しており、頼もしい。


 片桐直盛の父は近江の国人領主で浅井家に仕えていた。直盛は小谷城が落城した際、織田信長の命により、お市へを護るため(実際は浅井家の内情を探る役割)浅井家に同行した藤懸永勝(織田一族)へ大野治長兄弟や堀江新三郎正成(現在幸田広之の家臣)と共に従い、お市や浅井三姉妹を送り届けている(直盛が大野兄弟共々、藤懸永勝らに従い城を出たかは確認出来ません。本作品の設定ですのでご承知ください)。


 浅井三姉妹(茶々と初。江は落城時赤子)は現在織田信孝の直臣となっている藤懸永勝は当然記憶にあるが、直盛の記憶は無い。


 しかし直盛のことは堀江正成から聞いており、茶々や初は厚く礼を述べたが、これには直盛も涙を浮かべながら平服するのだった。また久しぶりに再会した堀江正成と飲み明かすなど親交を温めている。


 茶々と直盛の思わぬ縁を知り喜んだのは伊達政宗だ。何としてでも北方で手柄立てて利権も確保したい。直盛や堀江正成を招き浅井長政の話を聞きつつ大陸の様子を探りまくっている。


 さて、大陸北辺の食事情だがホジェンとスメレンクルの主食はやはり魚。冷凍、日干し、燻製など。漁期は煮たり焼いて食べることもあるという。天然の力で凍らせ刃物で削る。直盛によればアイヌも同様の方法で食べるとの事。


 凍らせて食べるのは鮭、鱒、チョウザメ(角倉了以に同行していた絵師の描いた姿で確認)、海獣など。スメレンクルはこれらを魚や海獣の脂に付けて食べるらしい。


 広之は感心していた。魚を生で食べればビタミンも摂れるし、蛋白も豊富。脂はエネルギー源として良い。ホジェンも似たようなものらしいが、上流へ遡ると女直の影響なのか調味料を使ったり、食べ方も豊富だという。


 そして女直だが、エドゥンやイルハたちの一族はいわば最北の女直であり、ホジェンの影響を受けやすい。当然だが広大な地域に分布しており、地域差もあるだろう。遼東半島に近い地域は漢族、豆満江や牡丹江近辺は朝鮮、西部はモンゴルなどの影響を受け多様なはずだ。


 エドゥンやイルハたちも豚や鴨を食べる他、魚も食べており、凍ったものも問題ないという。味付けについては醤を使い、米は滅多に食えないが、雑穀類を食べるようだ。酒は蒸留酒と醸造酒両方あるらしい。砂糖は貴重だが菩提樹の花を吸った蜂蜜を採取しており、それで代用するという。 

  

 そこで広之は女直に受けそうな満州料理(女直)を自作してみた。朝鮮・韓国料理も大幅に組み込みたい。こうしてエドゥンやイルハ、片桐直盛など集められ宴が催されたのである。


 まずナムルと、チヂミ、蒸し鶏、白いスンドゥブチゲが出された。ナムルは切り干し大根、じゃが芋、きくらげ、もやしを胡麻油、胡麻、塩、味醂、砂糖で和えている。チヂミは九条葱。蒸し鶏は茹でたあとスライスして味噌ダレを掛けている。


 白いスンドゥブは鶏の出汁に汲み出し豆腐、鶏肉、難波葱、きくらげ、蕪、銀杏、青唐辛子、生姜などが入り、九条葱が大量に盛られていた。味付けは塩、山椒、胡麻油。

 

 どれも口に合うようで喜んでいる。直盛も長年の苦労により何でも食えるようだ。そして棒餃子、回鍋肉風、タッカルビ風が並べられる。


 棒餃子は春巻き風で具材は豚肉とじゃが芋。回鍋肉風は茹でた豚の水気を切った後、スライスして九条葱と炒めている。辣油などは入っておらず味噌で味付けしており、日本の中華料理に近い。


 タッカルビ風は鶏、難波葱、青唐辛子を味噌ダレで炒めている。かなり重ための内容だが酒の力を借りつつエドゥンとイルハは片っ端から食べていく。2人共背丈は高く、食欲は旺盛だ。


 エドゥンとイルハはこれ以上何も出てこないと思っていたようだが、大きな鍋の登場に驚いていた。


「大納言様……これは」


 流石に直盛が驚く。五徳たちはよくあることなので笑っている。初が「当家の仕来たりですぞ」と脅かす。


 いわゆる火鍋とチゲ鍋の中間である。豚肉、鶏肉、豆腐、厚揚げ、スルメの戻したもの、蕎麦粉の葛切り、難波葱、ワンタン、じゃが芋、金時人参、大根、トック(餅米を蒸して整形した後、乾燥させている)、など豊富な具材に女直の2人は呆然。


 味は味噌ベースで唐辛子粉や辣油も少し入っている。このあと2時間ほど宴は続き、イルハはまたもやベロンベロンになるのであった。


 満州をイメージしたつもりだが、中華と韓国・朝鮮ぽい謎料理になり、内心不安だった広之もご満悦である。



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