第87話 南方開拓府
秋になり南方から来た各国の使節団は役目を終え帰国のため大坂を去った。残留する者も多数居る。今回、各国の使節団は大坂から京の都、そして安土と各地を巡った。その他、航路上の各地にも上陸している。
各地で動員された兵が出迎えた。京の都では織田信長時代以来のお馬揃えも行われ、実に盛大な行事となり、各国の使節団を驚かせたのである。
とりわけ鉄砲の装備率には興味を持った様子。幕府から日本には50万の常備兵が居ると聞いたとき言葉を失っていた。
シャム使節団に随行していた僧侶(かつて大乗仏教の側から侮蔑的に小乗仏教などと呼ばれた。現代では上座部仏教または南伝仏教と呼ばれる)は自国と異なる仏教や寺院へ興味を抱き僧侶の交換留学を提案するなど、様々な民間交流が展開。
ジョホールの使節団は全てイスラム教徒で、滞在場所や移動先に必ず礼拝所が用意された上、メッカの方角も記されており、使節一行を感激させている。食事面でも日本に住んでいるジョホール出身のイスラム教徒がハラルに則って処理した鶏肉や牛肉を使った。
あえて古米を使ったビリヤニ風の食べ物(いわばピラフ)、ナシゴレン風の炒飯、サテ、ラクサなど幸田広之が現代のマレー料理やインド系料理を参考にそれらしいメニューを考案しており、案の定「これは何という料理ですか?」などと言われたものの概ね大好評。
イスパニアのフィリピン総督からの使節団を除けば広之がもっとも重要視していたのはジョホールであった。ジョホールを足場にインドネシア方面のイスラム系諸王国への影響力強化に努めたいからだ。
いずれはマラッカの租借権を得てポルトガルへ立ち退きを要求する。あらゆる圧力掛けて、マラッカにポルトガルの治外法権となる日本人租界を作り、オランダ船が来航したタイミングで完全占領したい。
大砲を搭載したガレオン船は脅威ではある。しかし無限に砲弾があるわけでない。現時点で飛距離はあまり問題ではなく、そもそも命中率と破壊力が今ひとつ。消耗戦、接近戦、火船の体当りなど華麗とは言い難いが物量で押せば十分勝てる。
問題は明を恐れて使節派遣を拒否した琉球の処分だ。無論、攻めはしない。ただし圧力を強める。今回、南方へ向かう船も前回を大幅に上回っており、良い気はしないだろう。
いずれは奄美諸島や先頭諸島を割譲させ、主要な湊も租借する。さらに台湾だが台北の開発は順調に進んでおり、台中や高雄(台南を含む)も本格的な開拓を始めたい。
呂宋もイスパニアがフィリピンなどと名付け領有宣言しようと関係ない。問題は実態である。すでにルソン島北部のイロカノ族の有力酋長へ贈答品を大量に送り懇意な関係となりつつあり、今回拠点を作るため開拓団を送り込む。
そして台北に南方開拓府を置く。各拠点や商館の管理をさせる。ジョホールからシンガポールに商館設置の許可を貰っており、いずれはペナン、プーケット、ジャカルタ、アユタヤ、プノンペン、サイゴン、ハノイなどにも設置したい。
広之の居た時代の歴史ではオランダが台湾本島に安平古堡を築城し、明軍と衝突。1624年に明と講和。その前にはマカオを攻めたり、澎湖島を占拠するなどやりたい放題。オランダ商船を基本的にはマラッカ海峡横断させない方針である。西欧の最新技術と知識だけ吸い取りたい。
歴史を見れば明は台湾のオランダ拠点を攻めている。幕府の台湾拠点を明が攻めてもおかしくはない。ただオランダと規模が異なり、明も迂闊には攻めてこないはず。
現在、明は日本より銀と銅が殆ど入ってこない状態でイスパニアの銀が頼りだ。恐らく紙幣を刷りまくってインフレに苦しんでいるだろう。
その上、間もなくイスパニアからも銀が入ってこなくなる。さらに台湾の拠点を通じ、明の銀と銅を吸ってしまう。最後の一撃は北方だ。出来れば女直(明視点では女真)を支援し、万里の長城越えて南下させたい。
幕府も煙台や大連を占拠し、天津を攻撃するなど揺さぶり、有利な条件で条約締結へ持ち込みたいところ。とりあえず選択肢を多数作っておきたい。あとは状況を見て判断するだけだ。
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