第84話 五徳たちの晩餐と鱧
幕府総裁として事実上織田幕府を動かしている幸田広之は大の巨人ファンであった。戦国時代に転移した年、原巨人は低迷。阪神が独走状態。
広之が思うに2023年は余程のことがなければ阪神が優勝したはず。巨人がBクラスになった場合は原監督が辞任せざるを得ないだろう。後任は阿部か桑田あたり。
あれから8年も経過している。岡本や戸郷はメジャーに行き、坂本や丸は引退。今(2031年)の主力打者は秋広、浅野、萩尾、門脇、中山あたりなのだろうか?
監督は坂本、上原、高橋由伸とかなのかも知れない。メジャーだと大谷はまだ現役でもおかしくないが峠は過ぎているはず。
その辺のことは、とても気になる広之なのであった。状況は違うがルバング島から帰還した小野田さんやシベリア抑留者と似たような気もする。
いっそのこと野球、サッカー、ゴルフなどは日本発祥のスポーツ競技にしてしまい世界へ先んじるのも悪くない。現在、大坂では相撲が人気である。いわゆる相撲部屋は大名のお抱えになっており、やはり織田家がもっとも強い。
さらに徳川、丹羽、池田、島津が追随している。まだ場所制度は確立しておらず、各部屋同士の対抗戦やトーナメント(天挑五輪大武會や暗黒武術会みたいな形式)が中心だ。
春夏秋冬事に大会が開かれており、大坂の民衆は楽しみにしている。当然、賭けの対象となっているが組織的なもの以外、幕府や町奉行所は黙認していた。
これは広之の構想として茶店が沢山あるわけで、いずれブックメーカーを作り、幕府の財源にしたい思惑あっての事。現代において広之はスポーツベッティングの取材をしており、推進派だった影響もある。
出来れば、この時代からスポーツベッティングの芽を育てつつ、健康や栄養の知識を広めたいというのがひとつ。そして茶店を西欧のカフェやバーがそうであったように文化や投資などの発信地にという思いもあった。
今日、広之は商人たちと煙草の販売、南方や北方への投資、貨幣などについて意見の交換と親睦を兼ねて屋形船で楽しむ予定となっている。広之が城から戻り、そのまま出掛けると、入れ替わりに茶々が幸田邸に訪れた。
「五徳殿、本日は鱧と聞いております」
「然様、良い鱧が届いており、台所で捌いてるところ」
「それは心踊りますなぁ」
台所では鱧の骨切りが行われていた。お初は出汁を取っている。淡路島で揚がった新鮮な鱧を高速で輸送したものだ。現代において淡路島産鱧は美しく輝き黄金鱧などと言われている。
まずは鱧落とし、鱧の茶碗蒸し、鱧真薯蒸し、鱧そうめん。鱧落としはようするに湯引きしたものを氷水に落とす。氷は無いので深い井戸から汲み上げた水に落としたものだ。
付け合せにミョウガ、紫蘇、柚子。それを梅肉、ポン酢、酢味噌で食べる。鱧の茶碗蒸しは、すり身と骨切りした身の2種が入っており、鱧の頭を焼いたものと昆布で出汁を取った。鱧真薯は蒸して出汁を加えている。
鱧素麺は素麺に冷たい出汁を加え、湯引きした鱧をのせてたもので、錦糸卵で見栄えが美しい。
「やはり夏は鱧じゃなぁ。この鱧落としの梅肉は見事」
そう言いつつ五徳は日本酒を飲む。
初と江は茶碗蒸しから食べ、満足気だ。茶々は鱧落としのあと、真薯を食べつつ、赤紫蘇入りの梅酒を飲んでいる。
「鱧と素麺も相性が良い事」
五徳は鱧素麺に舌鼓を打つ。鱧素麺の鱧は湯引きする前、軽く炙っており、そのためほんの少し香ばしい。
そして鱧の天ぷら、鱧の照り焼き、鱧の蒲鉾、水茄子の浅漬けが並べられ、部屋の隅でお初が鱧しゃぶを作りはじめた。さらに鱧の骨を焼いて作った骨酒も全員に出される。
「この骨酒は少し甘く感じますが実に良い加減、つい酒が……」
「これ於茶々、そなたも飲み過ぎじゃ。しかし骨酒と照り焼きが実に合う」
鱧しゃぶが椀によそわれ運ばれてくると皆一斉に食べる。鱧しゃぶが終わると、お初は出汁割り(日本酒に鍋の出汁を加える)を作った。それを室女中が五徳たちへ持ってくる。
「来ましたなぁ。出汁割りが……」
初が思わず息を飲む。その後も天ぷらや蒲鉾を肴に飲み続ける五徳たちであった。
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