第78話 羽柴秀吉の北方遠征
羽柴秀吉たちは昨年北海道の積丹半島沖から樺太西南部へ流されてしまった。そこで北海道の民と同種族の集落へ寄寓するが諍いを起こし、さらに北へ向かいスメレンクルの集落で越冬。
そして雪解け(流氷溶け?)を待ち樺太の対岸に渡り、大河を発見。そこでスメレンクルの同種を見つける。案内人を付けてもらい上流へ向かった。
大河が分岐するあたりに寺の廃墟を発見。漢字の碑文があった。明国の力はかような地にも及んでることを認識する。
この地こそかつて明や元が地域支配の拠点としたヌルガンであったことを秀吉一行は知る由もない。かつてスメレンクルの襲撃により寺(永寧寺)は破壊され、再建された後も廃れていた。
現在は明の支配も緩み女直族(女真ともいう)などが、さらに上流のキジ湖あたりへ来ては交易を行っている。
「おい佐吉(石田三成)よ。しかし、この川ときたら木曽川も逃げ出すくらいの広さじゃな」
「これで暖かいのであれば、いくらでも米が取れましょうな。しかし米どころか麦もないようでございます」
「蕎麦や菜種なら育つわい。お前の大好きな検地したら100年くらい掛かるじゃろ」
「毎日蕎麦ですか……。それに検地はもう嫌でござる。国人や村人が鬼でも見るような目付きだし」
「それは仕方無いじゃろ。儂とて元は百姓、やつらの気持ちはようわかる。しかし検地することで国が治まり、安寧な生活の礎となる」
「殿、あそこから東側に小さい舟が何艘も入って行きまするぞ」
「熊之助(加藤清正)、恐らくあの先にスメレンクルの長が言ってたキジがあるはず。我々も続くのじゃ」
この後、秀吉たちの船はキジ湖に進入したが、集まっていたスメレンクル、キャカラ(ウデヘ)、ホジェン(ナナイ)、マングーニ(ウリチ)、ヴェイェニン(ネギタール)、樺太アイヌなどは驚いて逃げ出そうとしていた。
「殿、皆逃げて行きますぞ」
「市兵衛(福島正則)、ちとは頭使わんか。儂らの乗ってる船が大きすぎるのじゃ。見たこと無いはず。ここへ来る途中、廃れた寺の碑文を見た限り、明はこの地を追われて撤退したと考えるべきじゃて。恐らく儂らを明の軍船と勘違いしとる。それで辻褄が合うわい」
「流石、殿。さて我らはどう出ましょうや」
「それが肝心なところじゃ」
「いっそ明ということにしてすべて巻き上げてしまわれては……」
「市兵衛(福島正則)、何故お前は山賊や海賊みたいな考えをするのじゃ。そもそも明は朝貢といって気前良いはず。糞みたいな石ころや木彫りの熊とか持って来られても損するだけじゃろ。まずは敵でないとわからせるのが先決」
通訳を介して日本から訪れただけで危害加えないと伝えた。そして持っている鰊、干し鱈、干し鮑、煎海鼠、昆布を交換。
しばらく滞在しているうち、彼らが欲しているものも大体把握できた。
「殿、客人でござります」
「佐吉、誰じゃ?」
「はっ、筆談したところ大河の南から来た女直人だと申しております」
「何、女か?」
「いや男でござりまする」
こうして歴史的な会談が始まった。訪れたのは野人女直(中華王朝視点なので野人女直と括られているが実態は判然としない)系小部族の者でキジ湖から来たホジェンの者に大きな船に乗った人たちの来訪を聞いて駆けつけたのだ。
初めは朝鮮人だと思ってたが、その東にある国と聞き驚く。また秀吉から日本の人口(およその石高から1石1人で少し多めに2千万人くらいと推定した上、盛って3千万人と答えた)や兵士も多く大半は鉄砲を持っているなどの話に使者の目が輝く。
その後、秀吉たちは野人女直系部族の小さな城へ案内された。族長は建州、海西、野人と明から呼ばれる女直人の対立、そして建州のヌルハチが明を後ろ盾に満洲国を打ち立てたことなど聞かされる。
野人女直は明ともっとも離れ土地は痩せ、弱小集団が互いに対立。そこへ海西の諸部族が時おり襲ってくると嘆いた。
ようするに要望は2つ。貿易と軍事支援。秀吉に往年の冴えが蘇りつつあった。構図は最大勢力の海西が分裂している。それより劣る建州が明の後押しで統一。野人は為すすべなし。
実に最適な状態ではないか。海西を日本が後押しすれば面白い。秀吉は族長に脇差しと鉄砲を渡し日本国王(織田信孝)へ話を通すと約束。
族長は三男(キジ湖へ訪れた男)を国王への使者、そして娘を国王への人質として何人かの従者と一緒に差し出した。こうして秀吉は再び大河を河口へ向かい進んだ。
「殿、大きな船が見えまするぞ」
「佐吉、夢でも見てるのかのぅ。あれは日本の船じゃ」
上陸すると日本人が何百人も居る。
「もしや羽柴筑前守殿ではござらぬか。それがし幕府の命を受け北方を調べに参った京の都で商いをしてる角倉了以と申します。良くぞご無事で。丹羽様も心配しておられました……」
「何と天下の大商人と名高い、あの角倉殿か……」
秀吉たちは了以一行が持っていた茶、米、味噌、酒などを心ゆくまで堪能し、事情を話した。了以は緊急事態だと判断。自身は野人女直の客人を連れ一旦引き返すことを決断。
とりあえず函館まで戻り、東側(太平洋)に出れば何とか上方へ帰れると踏んだのだ。秀吉に後を託し、急ぎ函館を目指して出発した。
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