第67話 都市伝説幸田広之

 2023年9月下旬。現代では幸田広之が戦国時代に転移して約3ヶ月経過。


 連載している雑誌の編集者が1週間も連絡取れないことを不審に思い、他の出版社編集部、レギュラー出演しているテレビ番組スタッフ、ライター仲間など、日頃広之と交友のある人物や関係先へ片っ端から連絡。


 しかし全て音信不通だと判明。その頃、広之の離婚した妻と一緒に暮らす娘も父と連絡取れなくなり、祖父母(広之の両親)へ連絡。祖父母は広之の暮らすマンションへ向かったが部屋は無人。


 こうして広之の失踪が確認され、両親は警察へ失踪届けを出した。広之と付き合いのある編集者やライター仲間は反社関係および事件の執筆も多かっただけにトラブルの可能性を考慮。 


 SNSなどで広之が和歌山へ取材に行ったきり不明な事、乗っていた車、広之の身長など公開し、目撃情報を募った。


 広之の名前と顔は一部のサブカル好きなどには知られており、有力な情報が飛び込んだのである。大阪府岸和田市、久米田寺近くにあるコンビニで広之のミニバンが発見。


 警察は広之の身辺を洗った他にコンビニでの目撃情報、防犯カメラ等手掛かりなし。久米田池や付近の古墳なども調べられたが何も見つからず終い。


 その後、広之に関する目撃情報はネットを駆け巡った。北は北海道の足寄、南は沖縄の石垣島。反社やカルト教団に消された説が有力となっており、無責任な陰謀論の餌食となっている。


 仲間のライターが雑誌に寄稿したルポは反響も大きく、依然として一部世間の関心は根強い。これをテレビが見逃すはずもなく、秋の特番「緊急生放送 失踪者徹底追跡」で取り上げられることとなった。


「ええ今回は3人の失踪を取り上げたいと思います。まず1人目はテレビ番組の出演でもお馴染みのライター幸田広之さんです。ご存知の方もいらっしゃると思いますが忽然と姿を消し、約3ヶ月経過。本日は幸田さんとも親交のあった肉専門フードアナリストの肉山298(ニクヤ)さんと寄稿されていたミステリー雑誌シャンバラの犬神霊時編集長にお越し頂いております」


「よろしくお願いします」


「さて失踪当初からの事情にお詳しい犬神編集長は大変お辛いとは思います。今回、幸田さんの身に何が起こったとお考えでしょうか……」


「警察は事件性ないって言うんだけど、これは巨大な力が動いてますよ。そもそもクレカやキャッシュカード使ってる痕跡ないし。暮らしていけるわけないでしょ」


「僕も犬神さんと同意見ですね。色々と知りすぎてしまったんでしょう。結構ヤバイ取材多かったし」


「ええ、ということでまずはVTRを見て頂きましょう」


 広之の足取りや知人の話など色々出てくるが核心に触れるような情報はない。そして番組が視聴率稼ぐための秘密兵器である最強霊能者鬼墓亜衣子登場。鬼墓はVTR内で広之の部屋へ行ったり、車の運転席へ座ると不気味なことを呟く。


「ごめんなさい。さっきから物凄く苦しいんだけど、幸田さん生きてないかも知れないわね。いや、ちょっと違うな……。どこかで生きているのかも知れないけど。よくわからない。何かおかしいのよ」


 同行しているディレクターが何見えるか問うと数珠を握りしめながら怯えた表情になる。


「嫌だわ生首が沢山見えるのよ。物凄い量。何百も」


 そして一旦スタジオに戻った。


「鬼墓さんは生首が沢山見えると言ってますが、犬神さんどう思われますか?」


「やはり事件の可能性高いですって。臓器売買組織が関与している可能性も考えられるでしょ」


 司会が肉親と言い掛けたところ“肉”に反応した肉山が自分の事と勘違いし、突然遮って喋り始める。


「何百の生首って事件とかそんな次元超えてますよね。戦国時代じゃあるまいし、そんな数の生首、普通の国ではないでしょ。戦争でもないレベルの数ですし」


「そうそう普通の国じゃ、そんなのないでしょ。でも普通の国じゃないとしたら。例えば独裁国家とか」


 その後、犬神は某国の名前出したが放送上の画面は寸前に視聴者より情報寄せられているコールセンターへ切り替わった。さらにVTRへ戻る。鬼墓は失踪現場とされるコンビニの駐車場を訪れた。


 コンビニ駐車場から久米田寺へ移動し、ここに来たと断言。さらに岸和田城へ歩いていく。


「嫌だ何か寒いわ。ここに来たのよ。そして北の方に行ったと思う」


 鬼墓がそう言うとスタジオの犬神は「ほらほら、やっぱ北◯◯だろ。大体、大阪で消えているんだからさ」などと危険なことを口走っている。


 同行ディレクターが北のどのへんと問う。


「大阪市内だと思うわ」


 スタジオの犬神は興奮しながら「南港まで拉致られて車ごとフェリーで九州に送られ、そこから別の船で」と言ったところでスタッフに囲まれ肉山と一緒にスタジオから出される。


「公共の電波が言論弾圧するなよ。憲法違反だし、放送法違反だろうが」


 VTRは鬼墓が大阪市内へ向かい大阪城で強い念を感じると言って終わった。スタジオの司会者がコールセンターへ寄せられた目撃情報などを取り上げつつ無難に締めくくって番組は2人目の失踪者へ……。


 番組の放送中からSNSは非常に盛り上がり、ますます陰謀論のネタとなるのであった。

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