第57話 秀吉の夢と北方
「殿、島が見えましたぞ」
「しかし、随分大きな島じゃの佐吉」
「方角としては蝦夷の北だと思われます」
羽柴秀吉たち一行は積丹半島の沖合いを航行している最中、強風に流され現代で言うところのサハリン南部に流されていた。当時の樺太(サハリン)は南部にアイヌ、北部にニヴフが住んでおり、かつてアイヌは元の征伐にあったという記録もある。
秀吉たち一行には蝦夷の民も何人か居り、土地の者とある程度の会話が成立し、滞在出来た。しかし上陸3日目くらいに、酋長から船を寄越せと言われ、怒った虎之助改め熊之助が怒り狂って斬り殺す。
そのまま村を制圧したが1人だけ身なりの違う若い男性を保護。村人からスメレンクル(ニヴフの自称)と呼ばれている。同行している蝦夷の民ともほぼ言葉は通じない。仕方がないので、和人と蝦夷の民、蝦夷の民と土地の民、土地の民とスメレンクルという間接的な会話を試みる。
どうも北の方に住んでいたが、ある者たちに捕まり、この村へ売られたらしい。秀吉たちが海を越えた西から来たと勘違いしている。何故西なのだろうか。
秀吉は船の修理が終わり、このまま島の北へ行くことにした。村の男性はほとんど殺したので、生き残った若い女性や捕虜の男、さらに村で略奪した食料を船に積み込み、北へ向かう。
そしてスメレンクルの案内で彼の住んでいた海沿いの村に辿り着けた。保護した男は酋長の息子で交易のため南へ向かったが、途中東の部族に襲われ、南の村に売られてしまったようだ。
海を越えた西の地に大きな川があり、何日も船で行った先に住む人たちと秀吉たちは似ていると言う。その仲間だと思っており、とても恐れている。都合がいいので仲間だということにした。
秀吉一行に陸奥の地侍が居る。その者によれば蝦夷の奥にも広い土地があり、さらに奥の方から珍しい品物が流れてくると言う。ならば、この地で足場を固め、さらに北へ向かうということで決した。
「佐吉……儂は昨晩不思議な夢を見たぞ」
「いかなる夢でござりましょう」
「儂が日向守を討ち、天下人になってる夢じゃ」
「殿が天下人……」
「笑うでない佐吉。儂と黒田のたわけの算段では上方に向かい、日向守を討ち果たすつもりじゃった。上様(織田信孝)を名目上の旗頭にしてな。さすれば御本所様(織田信雄)と必ず違える。上様は本来権六殿に近い故、そこまで読んでおった。それまで儂のそういう勘は外れたことがない。だからこそ織田家宿老と言われるまでになった。あれから、何か歯車がおかしい」
「しかし殿の武運はまだ尽きておりませぬぞ」
「儂は農民の出じゃから失うものは何もない。しかし佐吉や虎之助、いや熊之助に見せたかったのぅ。儂が金の茶室で茶を点てるところを。皆儂のことを関白殿下などと言ってひれ伏しておったわい」
「関白とはまた……。それはいくらなんでも無理というもの。摂家しか就けぬはず。武家で関白になった話なぞ、聞いたことありませぬ」
「まあ、夢じゃからな」
その後、秀吉たちはスメレンクルの集落から少し離れたところに住み始めた。秀吉たちの船には小舟、魚網、農具なども積まれている。
さっそくスメレンクルの助けを借りて家を作りつつ鮭、鰊、鮑、ナマコ、昆布などを大量に捕獲した。それらを皮で作った靴や服と交換。
幕府は明で高く売れるとかで鮑、ナマコ、昆布などを欲していたはずだ。日本の西側には明、朝鮮、蒙古など居る。海を越えた西の地に居る自分たちと似た連中がもし、それらの同種族であれば売れるかも知れない。
もし駄目でも松前まで持っていければ、少しは銭になるだろうし、干して大量に備蓄しても損にはならないと考えたのだ。
畑を作り、大豆や蕎麦を植えた。山菜も積み食料とする。こうしてさらに北の地で新たな生活を始める秀吉であった。
一方、大坂の幸田広之は今年の推定煙草(タバコの葉)収穫量から見て、あと2年ほどで本格的な大量栽培が可能になると考えていた。すでに煙草の加工については問題ない。まだ明国でも煙草の販売はしてないようなので貿易商品になりうる。
現在、主力となりつつある鮑、ナマコ、昆布、帆立にフカヒレも加わってきた。さらに広之が運営している薬種問屋の商品も売れており、現状でも大量の砂糖を購入する代金差し引いて黒字。
あとはビートの改良をして砂糖大根にしたい。昨年の段階で幾分か甘いのが出てきた、今年はさらに栽培箇所を広げ大量に栽培している。これも秒読み段階だと思いたい。
現在、綿、絹、陶磁器、焔硝(硝石)の生産拡大は続いており、順調だ。少なくとも5年以内に貿易を解禁出来るだろう。ポルトガルの生糸を潰しつつイスパニアが新大陸で掘っているポトシ銀山の銀も吸いあげる。
日本の金・銀・銅は極力国外に出さない。当然、いずれインフレになるだろう。米に頼るしかない大名は立ち行かなくなり、放っておいても弱くなる。後は史実と同じく欧州のように経済や産業が発展すると信じたい。そこまで自身が生きていないにせよ流れは変えたい。
日本の針路を模索する広之であった。
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