第49話 蹴鞠と2度目のクリスマス
12月下旬、大坂で幸田広之発案による天下
本来、蹴鞠に勝敗はない(江戸時代は勝負を競う形式もあった)。基本8人で行う。しかし争覇ルールでは1対1である。コートにわかれ打ち合う形式で、テニスのようなものだ。10点先取で勝ち。
トーナメント形式で行われる。これは元々、幸田家中の遊びとしてやっていたものだ。西国への遠征で他家にも広がった。
公正を期すため今回幸田家中から参加者は居ない。36人がノミネートされ行われたが見物人は主に信孝家中のみ。優勝した者は信孝から盃を渡され天下蹴士の称号を受ける。
演出として太鼓、法螺貝、笛、琵琶などが鳴り響く。入場時、音楽が鳴る中、仲間と一緒に選手が登場。ハーフタイムには幸若舞など行われた。
家中対決を煽り過ぎたせいか、負けた選手が切腹して主に詫びる、と言い出すなど少なからず波乱も。結果は信孝の馬廻である荒井左近(架空人物)の優勝に終わり。次回開催も決まった。こうして信孝家中では空前の蹴鞠ブームが到来。
この噂は宮中にも伝わる。武家の行う下品な蹴鞠だと嘲笑う声と興味が交差。広之の下へ近衛前久から問い合わせもあった。
その為、前久の下へ家中で腕の立つ者2人を派遣し実演させるなどの対応。蹴鞠ブームの中、今年もクリスマスがやってきた(西暦では日付が異なる)。
今回は本格的なものではなく広之の居た現代風のクリスマスでよいという話だ。とにかく近親者で楽しみたいそうである。
今回、これまで避けてきた鶏を出すことにする。卵食ってるし、鴨食えるならなんとかなるはず。問題は味次第だろ。
鶏は以前から今宮村の農家に飼育してもらっていた。焼鳥、唐揚げ、炭火焼、おでん、蟹あたりでよいだろ。もし鶏が不評の時は、おでんと蟹でなんとかする。こうして当日になった。
今回、おでんは大根、里芋、豆腐、厚揚げ、がんもどき、薩摩揚げ、真薯、蛸、生麩、はんぺん、卵、つみれ、セイコガニのカニ面。焼鳥はネギマ、もも、ささ身、つくね、レバー、ハツ、砂肝。
唐揚げは胸肉、もも、手羽、砂糖、塩のブライン液に浸し、卵白、塩、醤油、にんにく、生姜、酒で味付け。それを小麦粉と片栗粉で揚げる。出来上がったら軽く山椒。
日も暮れ、上様と竹子、さらに三法師が訪れた。これまで通り、五徳と浅井三姉妹も同席を許されている。
「屋敷の外で何やら焼ける香りが漂うておりますな」
「これは御台様、鶏を焼いております」
「食したことはありませぬが、少し気味悪いような気も……。五徳殿は三河でよく食べられたのでしょう」
「さて三河でもあまり食せぬもの。雉はときおり頂きましたが」
努めて冷静に竹子の煽りを回避する五徳であった。
「ほう、左衛門よ、今日はおでんがあるのぉ。出汁割りがたまらぬ」
まずは、五徳がおでんを取り分ける。そこへ、お初と奥女中がセイコガニのカニ面を持ってきた。
雌の越前蟹に甲羅に蟹味噌、内子、外子、ほぐした身、蟹脚などが盛られ、酒を掛けて蒸したものだ。それに広之がおでん出汁を掛ける。
信孝は見ただけで食い方がわかったらしく、顔を近づけすすった。そして食べる。
「以前馳走になった、焼いたのも美味なれど、これもまた天下の珍味じゃな」
「冬になると、この蟹が食せますなぁ」
茹でた蟹も出されれ、皆黙って食べ始めた。五徳も食べている。浅井三姉妹は薄目の出汁割り、他は濃い目の出汁割りが止まらない。
さらに焼鳥が出される。50本ほどはあろうか。最初は皆警戒していたが、食べ始めたら最後。塩とタレ双方大人気。
「左衛門よ、これも実に美味。食べぬのは勿体ない。日本中から鶏が消えしまうな」
それを聞きつつ、竹子は焼酎のホット、それも梅割りを奥女中に持ってこさせる。茶々は梅酒、五徳は緑茶割り。まさに現代の焼鳥屋だ。
焼酎の梅割りは広之がよく晩酌で飲むのだが、いつの間にか竹子も知っている。
「のう左衛門。蟹は無理として、おでんや焼鳥は普通の者でも食えるようにしてやってくれ。お主なら可能であろう」
「10年以内には、何とかなりましょう」
「流石は包丁家老様でございますなぁ」
「茶々殿、お戯れを」
「武士でありながら1度も刀や槍を振るう事もなく一代で家老になる者は天下広しといえ、そうは居りますまい」
「随分な言いようですな、五徳殿」
「包丁では戦えぬしのぅ」
信孝も茶化す。
「
茶々にもからかわれる広之であった。
「さて、最後は鶏の唐揚げをお召し上がりくださいませ」
これも大好評で、あっという間に売り切れた。三法師は焼鳥を結構食べていたが唐揚げ(三法師が食べるものは小さく切っている)をもっとも気に入ったようだ。
かくして2度目のクリスマスも平穏に終わった。
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