第48話 将軍宣下と千利休
織田信孝が内大臣征西軍を率いて中国や九州へ遠征している間、奥羽でも動きがあった。まず安土城で謹慎していた羽柴秀吉はいつ暗殺されるかも知れないという恐怖の日々から解放。
但馬の羽柴秀長と合流し、6月下旬に出羽の大宝寺城へ到着。春日山城で蒲生氏郷から昨年に征伐した出羽の検地を直ちに行い、反抗的な国人は容赦せず撫で斬り(皆殺し)にしても構わないと指示された。
早速、石田三成たちに検地をさせたが、農民の抵抗は激しかった。言葉もあまり通じない。憤慨する加藤清正や福島正則などは見せしめのため家屋に逆らった農民を詰め込み火を放つなど容赦ない態度で望んだのである。そのため次々と一揆が勃発し、瞬く間に広がった。
この騒動で半数以上の国人が離反。3千人ほどしか居ない秀吉たちは立ち行かなくなってしまう。それもそのはずで秀吉が来る前に大宝寺城代の小倉行春(蒲生氏郷家臣)が春頃から棟別銭(家屋に対して)や段銭(田畑の広さ)を厳しく取り立てた。
越後から大勢の兵が現地入りし、行春を手伝い、秀吉が到着するや引き揚げたのである。その後、氏郷は行春、揚北衆、森長可、越中勢を率いて越後国内にある蘆名家重臣金上盛備の津川城へ攻め寄せた。
後詰めに来た蘆名軍と合戦に及び勝利。そのまま岩代へ追撃し、黒川城を包囲。雪が舞い始めると、越後へ帰還。結局、秀吉の救援には行けず越冬となった。
秀吉は旧大宝寺領に孤立。籠城する他なかったが、年貢を取ることも出来ず、城内に残された少ない米で来春を待つ他ない。
一方、上野の滝川一益は下野、常陸、下総、上総、安房の諸将に上様の下向も近いうえ、北条を攻めて功を立てよ、と檄を飛ばした。
さらに一益は織田方の成田長親が守る忍城を拠点に北条領へ侵攻開始。徳川家康も相模や武蔵へ侵攻する構えを見せ、北条は窮地に陥る。
しかし一益が北条を攻めるや関東の諸将はその機会に勢力拡大へ動いた。佐竹と結城の両属状態にある多賀谷が小田、江戸は
また里見は北条と懇意であり、日和見的な態度に終始。結局、一益は冬を前に上野へ撤退を余儀なくされた。こうした動きのなか大坂では12月に入り信孝が将軍宣下を受け、征夷大将軍となる。高野山に配流となっていた前将軍の足利義昭も赦され畿内で2万石の知行が与えられ、和解。
さらに全国へ惣無事令(私戦禁止)と天正五令の厳守が命じられ、なお織田将軍家に弓を弾く北条を来春討伐すると宣言。
室町幕府による守護、管領、探題などは今後一切名乗るべからず。また鎌倉幕府以来の所領は一旦無効。新たなに織田将軍家の定めるものなり。これらについても全国へ通達された。
12月下旬、関東の諸将は厩橋城へ集められ、先頃の対北条戦最中における、不忠義なる私戦を断罪され、里見は安房一国安堵、佐竹は10万石に減封、宇都宮は奥羽に3万石で転封、結城は奥羽に3万石で転封、那須、江戸、多賀谷、小田は改易。以上のように通達した。
一益は謝罪する諸将たちに、万一従わなかったり、朝廷へ不服を申立てた場合は謀反と見なし、相応の処置で望む、と告げたのである。
関東にも中国・九州征伐が僅か3~4ヶ月という驚くべき短期間で成し遂げられたことは伝わっており、激しい抗弁はあったものの謀反と呼べる動きは無し。
将軍宣下による幕府体制の準備も佳境となり忙しい幸田広之を細川忠興に伴われ千利休が訪ねてきた。以前より1度会いたいとの話はあったが今回是非にということでの招待。
食事の前に茶を飲みたいとの要望である。千利休に茶を出すとか想定外だ。とりあえず普段屋敷で飲む茶を出すことに。まず、ほうじ茶を出す。本来、この時代にはない。
「ほう、香りがようございますな。茶を焙じなさるとは……。このようになさればふるうなったお茶の葉も生き返る」
「同じようなもので、米を煎って加えました。抹茶も少し入ってます」
続いて玄米茶を差し出す。この時代にはないが、利休はまず薫りに驚き、少し飲んで考え込む。
「まさに自由奔放。茶の楽しみ方はひろうございますな」
「それでは、こんなものは如何でしょう」
昆布茶を出す。昆布出汁に梅干を入れて煮出し、茶で割った。
「なんと昆布の旨味が……。ほのかに感じる梅も見事なもの」
続いて豆乳抹茶ラテ、豆乳ほうじ茶ラテも出したが、甘いお茶に相当な衝撃を受けていた。
茶請けはマカロンもどき。
「少し茶を窮屈に考えておったようですな。茶にこれほどの様々な楽しみ方があろうとは、誠に世の中はひろうございます」
玄米茶や昆布茶出した時は少し怖かったが、一応喜んでくれたようだ。こうして食事に移ったが、焼酎のお茶割り(熱いもの)を出すと、この日もっとも驚いていた。
食事はお茶でお腹いっぱいだろうから、軽めにしている。葛切りの梅酢、難波葱のぬた、茶碗蒸し、引き揚げ湯葉の刺身、穴子と鯛の天ぷら、揚げ出し豆腐、鯛の真薯椀。
最後に少量の茶飯と塩引き鮭の茶漬けを出したが、これにも少なからず驚いていたようだ。緊張しつつも利休を満足させ、少し嬉しい広之であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます