第19話 新体制発足

 安土城へ織田家の家老をはじめ畿内及び周辺や各地から大勢の家臣が集まり、久々に活気を取り戻していた。どのような体制へ移行するのか京の都や大坂でも話題となっており、公家、寺社、商人、イエズス会の宣教師も訪れている。


 織田信雄の葬儀が行われたあと織田信孝により家老4人と徳川家康が集められた。

 

「やはり名代というのは争いの元であるがゆえ改めたい。まず三法師を我が養子としたうえ、儂の嫡子と致す。また、お市の方の娘3人も養子とする」 


 信孝がそう言い放つと、丹羽長秀、池田恒興、羽柴秀吉、滝川一益、徳川家康の5人は平伏した。

 

 続いて長秀により、近いうち信孝は朝廷から征夷大将軍へ推任されることが公表されたのである。


 信孝が天下人になるのは決定的である以上、不服を申し立てる者も居らず、話はそのまま政権の体制と知行へ移行した。


 いずれ北条と関東を征伐し、幕府を武蔵国へ置くことも知らされ波紋を呼ぶ。これに上野国を預かる滝川一益が懐疑的な意見を述べた。


 一益は柴田勝家亡き今、自身が織田家において微妙な立場であることを痛感しており、出来る限り信孝や長秀に睨まれたくはない。


 しかし東国より上方を眺め痛感している。まず人の数が違う。そのうえ坂東太郎と言われる大河、利根川の凄まじさ。上方と違い土地は荒れ、二毛作も珍しい。


 商業も弱々しく大名として、実入りが少なすぎる。おそらく、ここに居る者の中でおのれがもっとも貧しいはず。


 武士や農民もどことなく荒々しい。築城技術、文化、医学、学問、商業、農業、漁業、いずれも立ち遅れている。


 当時、人口密度が多いのは畿内と言われている。しかも畿内は人口が多いだけでなく、農業も米のほかに麦や蕎麦など二毛作あるいは三毛作さえ行われていた。


 畿内と奥羽あたりでは現代なら日本と北朝鮮くらいの差があったのかも知れない。奥羽はやはり貧しかったように思う。なぜなら寒冷ゆえ二毛作が簡単に出来ないわけで、飢饉にも弱くて当然。


 麦作は米の裏作が可能だが、寒いほど期間が長くなる。関東あたりまではいい。そういう意味でも人口が多く、商品生産が盛んなうえ裏作により二毛作や三毛作まで出来た畿内は重要。

 

 戦国大名が何で儲けるかといえば基本は税しかない。土地や米は家臣に与えて、己は段銭、棟別銭、矢銭などの賦課税を得る。無論、町や湊を抑えておれば、得られる資金も大きい。そのうえ家臣や領民に賦役を課すことも出来る。


 一益は言葉を慎重に選びながら、東国の困難さを切実に訴えた。信孝は一益や旧武田領に配された各将の困難さに労いねぎらいの言葉をかけつつ、だからこそ東国を拓き豊かにすることが日本全体の発展に繋がると信孝は丁寧に説き、納得させる。


 そして知行について長秀が読み上げた。


織田信孝/摂津、河内、和泉、大和、山城、丹波、阿波


丹羽長秀/越前、加賀、能登、越中


羽柴秀吉/播磨、美作、因幡、但馬、伯耆、備中、讃岐、淡路※与力分含む


池田恒興/尾張


中川清秀/近江坂本城を含む20万石


高山重友/近江長浜城を含む20万石


細川忠興/丹後、若狭


蜂屋頼隆/東美濃

 

蒲生氏郷/近江15万石と春日山城代


稲葉良通/岐阜城含む西美濃※与力分含む


岡本良勝/土佐


河尻秀隆/伊勢10万石


毛利長秀/伊勢5万石


 そのほかは知行安堵だが甲斐(穴山梅雪改め武田信君のぶただ領含む)と南信濃(木曽義昌領含む)は徳川家康に譲られた。また家康は信孝の要請により本拠を駿府へ移動となる。


 毛利家は徳川家同様、正式に同盟を結び、なおかつ小早川隆景は織田家家臣となることも公表された。


 本家が滅亡してしまった上杉家の扱いについては、上条じょうじょう上杉家の上条正繁が上杉景勝の跡目を継ぐこと。そのうえで直江兼続と共に織田家家臣。当面は蒲生氏郷や森長可と一緒に長秀の与力扱い。


 最後に逃亡していた近衛前久を赦すことが伝えられ散会となった。 


 そのころ幸田広之は俗にいう浅井三姉妹と同じ部屋に居た。姉妹はこれから大坂で暮らすことになるため案内役に任じられたのである。


 無論、現代人である広之は茶々(淀君)が気になってしまう。まだ子供ではあるが噂にたがわぬ美人だ。今のところ性格は普通に思える。


 今回、家康から土産に八丁味噌をたくさんもらった。大坂へ戻ったら味噌うどんや五平餅を作ってみたい。などとご満悦の広之であった。


 広之もすでに2万石へ加増のうえ軍役なし、と通達されている。安土城に到着してからも、挨拶が引きも切らない。大坂の屋敷も届けられた品物で溢れかえっていた。


 大半は食い物で、中川清秀経由により情報が漏れているらしい。


 こうして三法師と浅井三姉妹も信孝と一緒に大坂へ向かい安土を後にした。

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