第11話 岐阜会議②
9月某日、岐阜城には織田家の家臣が集結。柴田勝家は越後に与力の前田利家と佐々成政を残しての参加であり、到着が遅かった。
ほぼすべての者が山崎における勝利、そして旧武田領への侵攻、さらに紀伊平定など、目覚ましい戦果をあげた信孝と長秀の下へ寄ってくる。
池田恒興などは得意満面で敵前渡河により前面の部隊を壊走させるや返す刀で迂回。再度渡河し、斎藤利三や明智秀満へ切り崩したときのことを話している。織田家で猛将といえば瓶割り柴田だったが、もはや恒興にお株を奪われつつあった。
天下の逆賊明智光秀を討ち取った丹羽長秀麾下の戸田勝成の武勇も知れ渡っており、行く先々で声をかけられている。
もっとも人だかりが多いのは織田信孝と丹羽長秀であった。誰もが今回の主役だと認識しており、誰も勝家には近づかない。
まずは大広間に家臣一同集まり、新たな織田家当主三法師の家督相続が執り行われたのである。そこには徳川家康の姿もあった。
次に柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益、羽柴秀吉、池田恒興の5人で話し合いが行われた。織田信雄が三法師名代となることに誰も異存なし。
問題は領地分配についてだった。勝家は尾張、美濃、安土城および坂田郡の一部を三法師が相続したうえ、自身の一門衆が岐阜城と清洲城の城代および美濃・尾張の管理を行うと主張したのである。
これ以外については大坂城と摂津の一部、河内の一部、紀伊と大和が信孝、さらに信孝の領地である北伊勢の河曲郡と鈴鹿郡を信雄へ譲渡。
長秀は若狭安堵のうえ丹波と山城加増。
恒興は摂津内の本領安堵のうえ坂本城および東近江に20万石の加増。
重友と清秀は河内にそれぞれ5万石加増。
蜂屋頼隆も和泉安堵のうえ河内に5万石加増。
秀吉は播磨安堵のうえ但馬と因幡の管理、毛利から和睦により割譲を取り付けた備中・美作・伯耆の管理、長浜城および北近江三郡は勝家に譲渡。
勝家は越前と加賀の一部安堵、長浜城および北近江三郡は秀吉の譲渡により加増。
一益は北伊勢5郡、信濃小県郡と佐久郡、上野安堵。
森長可、毛利長秀、河尻秀隆はそれぞれ安堵。
領地分配が決まったほか、お市の方が勝家に嫁ぐことも公表。さらに三法師は当面岐阜に居住し、傅役は前田玄以となった。
会議が終わると、信長親子のために造営中の信大寺(架空の寺)で葬儀が厳かに執り行われたのである。朝廷の使者や公家も大勢訪れた。
実はこの時すでに信孝の下へ上杉から臣従したいむねの使者が来ており、勝家を窮地に至らしめる策は出来ていた。
そもそも勝家が美濃と尾張に自身の親族を城代に置くことをほのめかしたのは信孝である。信雄では心許ないうえ、自分が出しゃばると禍根を残すから、と囁いた。真面目で自尊心の強い勝家は長秀への対抗心も手伝い話に飛び付いた。
一方で信雄には事実上の天下人なれば
あとは上杉との和睦で勝家が呑めない条件に持ち込むだけだ。自分は本来であれば来年の春過ぎに死ぬ。ここまで変われば行くすえも異なるだろう。そう胸に抱きながら月を見上げる信孝だった。
「おう筑前の守(秀吉)、お側に寄らせていただいてよろしいござろうか?」
「五郎左殿(長秀)おやめくだされ。藤吉郎で結構」
「毛利はいかがじゃ」
「村上水軍が我らになびき、以前のようには行きませぬ。水軍の力で移動や兵糧の運搬が難しいうえに国人が動揺しておりますな」
「何を他人事みたいに言っておる。お主が得意の調略で毛利の国人どもを揺さぶってるのじゃろ?」
「滅相もない」
「ところで藤吉郎よ、長浜はどういう算段なのじゃ」
「五郎左殿こそ、あの御仁をいかがなさるおつもりで……」
「権六はなるようにしかならぬ」
「どのようになれるのでしょうや?」
「あいかわらずじゃな」
「安土と長浜で仲良くしてもらだけじゃ」
「時期は?」
「気が早いのう。上杉次第じゃ。お主の方は毛利抑えられるのか?」
「その辺はご心配無用。四国の三好から長宗我部をなんとかしてほしいとうるさいですが……」
「近いうち儂が讃岐に行く予定じゃ」
「それならば播磨や備前からも兵を出しますゆえご遠慮なくお申し付けくだされ」
「頼むぞ。ところで藤吉郎よ、お主は
「またまたご冗談を。それがしの母堂が高貴な御方の子供を授かるよう思いまするか。誰が、かような戯言」
「つまらぬこと言うて悪かったな。お主に紹介しておきたい人物居るから連れてくる」
しばらくして長秀が信孝と広之を連れて戻ってきた。
「三七郎様(信孝)!」
「筑前の守殿、この者は儂の家来で幸田左衛門じゃ」
「えっ、もしや幸田彦右衛門殿のお身内で?」
「従兄弟でな、いま儂の側に置いておるが、なかなか面白い男での」
「お初にお目にかかります。それがし……」
「長いからいいよ」と長秀に見せ場を奪われムッとする広之たったが、羽柴秀吉を見て感動している。
そこから30分ほど、あれやこれや質問というかインタビューのような状態になる。
昔のことなど散々聞かれ困惑しつつ、照れながらも真面目に答える羽柴秀吉であった。
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