第10話 岐阜会議①

 岐阜城へ入った織田信孝は勢力的に動いている。まずは織田信忠の命により二条新御所を脱している吏僚前田玄以や討ち死にした家臣の親族へ労いの言葉で遇した。

 

 丹羽長秀が北畠信意を伴ない岐阜城へ到着すると信孝は門前にて出迎え、信意を喜ばせたのである。


「三七、此度は誠に大儀であった。余の貸した兵、五郎左(長秀)、勝三郎(恒興)、三河殿(家康)の助けがあったとはいえ、見事じゃ」


「はっ、御本所様がお貸しくださった兵や皆の者に助けられ、なんとか逆賊を討つこと叶った次第」


「苦しゅうない。今後は余が三法師・・・の名代となるゆえ心配無用じゃ。大業を成し遂げて見せようぞ。三七も頼りにしておるぞ。そなたは此度の手柄もあるし、悪いようにはせん安心いたせ」


「有難きお言葉」


「そこでな、予は北畠家から織田家に戻ろうと思っておる。これからは織田三介信雄じゃ。呼び方は当面御本所様か御屋形様でもよいぞ」


 信孝と長秀は以降、信雄を立てつつ、新たな所領割りや各地の織田家臣への対応策に忙殺された。そんなおり甲斐や信濃で武田旧臣による蜂起が発生した、との報が届いた。


 徳川家康と穴山梅雪に甲府の河尻秀隆救援を依頼。長秀は1万の兵で木曽領へ入り深志城の木曽義昌から嫡子岩松丸を人質にとる。


 さらに高島城などにも足を伸ばし、海津城の森長可、飯田城の毛利長秀、小諸城の道家正栄、甲府の河尻秀隆、厩橋城の滝川一益などと連絡を取り合い、上野の主要国人へも使者を出した。


 そのうえ越後の上杉景勝と相模の北条氏政には念入りな使者を送って、牽制を試みる。しかし北条は上野目指して進軍。


 長秀は甲府で家康や梅雪と合流のうえ八王子方面へ進軍すると北条は慌てて引き返し、和睦の使者を送ってきた。こうして史実における天正壬午の乱は最小限で抑え込まれた。


 6月20日に長秀が各地を転戦して岐阜へ戻ると柴田勝家の姿があった。


「五郎左よ、三法師様と三介殿のことであるが……」


 勝家はそう切り出すと家督相続はお家の大事。いくら明智討伐の功なれど重臣たちで決めるべきこと。三法師の年齢も問題である、と苦言を呈した。


「権六殿の申すことはごもっとも。されど我らは織田家に御奉公している身。上様と殿がお亡くなりになったからには誰が決めるでなく、殿の御嫡子三法師様が家督をお継ぎになられたことで相違ないはず。それに従うのが臣下の忠義でありましょうや」


「……」


「我らが明智を討ったあと、権六殿には動かず対処していただくようお願い申したのに上杉と和議も結ばず魚津城を引き上げた結果、越中や能登で蜂起が発生。聞いたところによれば事変が起きる数日前、魚津城を力押しで落とし、そのさい上杉方の名だたる将たちが自刃なされたとか……」

  

「然様じゃ。とても和議など結べなんだ」


「されど備中高松城を囲んでいた藤吉郎は毛利と和睦を結び、清水宗治を切腹させ、陣払いを見届けたあと、高松城に留まってござる。左近殿(滝川一益)、河内守殿(毛利長秀)、勝三殿(森長可)、与四郎殿(河尻秀隆は)などにも動かぬようお願い申し上げました」


「たわけたことを。上様に命じられたわけではなかろう」


「聞き捨てなりませぬな。お家より従える人物で判断されるというのであれば……」


 明らかに、かつて勝家が信長の弟である信勝(信行)を擁立し、争ったことを揶揄している。険悪なまま話は終わり、信孝は勝家をなだめつつ、お市の方と婚姻を勧めた。これには勝家も大喜びで同意したのである。


 さらに信孝は家老で話し合うことを提案。まずは各地の動揺を鎮めるのが大事であり、9月に家老を岐阜城へ召集する運びとなった。


 勝家は再び越中に赴き、魚津城を包囲する上杉軍を追い払ったのである。さらに松倉城も落とし、越後へ侵入。信孝と長秀の思惑通りだった。


 岐阜会議まで春日山城を陥落させることは無理。しかし名誉回復のため必死に上杉を攻めるはず。会議後、不満を持った勝家が挙兵すれば、上杉へ越後安堵の和議を餌に背後を突かせる。


 9月までのあいだ、信孝と長秀は雑賀の反織田派を征伐し、そのまま紀伊全土を平定。参戦した武将は池田恒興、高山重友、中川清秀など山崎の戦いと同様の顔ぶれに蜂屋頼隆、蒲生氏郷も加わった。


 この時点で大坂城を拠点とする信孝が直轄管理した領地は伊勢の河曲郡、鈴鹿郡、大和、紀伊、山城、丹波、近江の滋賀郡と高島郡など150万石余。これに摂津、若狭、丹後、近江の蒲生郡など加えると230万石はあるだろうか。


 秀吉などは長秀を通じ信孝に長浜は要らないので返さなくて(信孝が念のため兵を入れてる)結構、と言ってきた。そして9月中ごろ、岐阜に信孝、信雄、長秀、勝家、秀吉、一益、恒興が集まった。



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